VIRGIN BMW | 第7回 求めるシート像 365日BMW Motorrad.宣言

第7回 求めるシート像

  • 掲載日/2006年09月12日【365日BMW Motorrad.宣言】
  • コラムニスト/K&H 上山 力

365日BMW Motorrad.宣言の画像

車体が不安定なときの姿勢制御
これを何とかできないものか

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北陸自動車道の黒部川付近では横風に悩まされました。海沿いということもありますが、こちら地域は「防風壁」があまり無いんですね。トラックやバスなどの大型車を真横に、追い越したり追い越されたりすると吸い込まれそうになり、何度も怖い思いをしました。テレレバー特有のロールセンターの低さも手伝っているのでしょう。ロールセンターを低くすることにより得た旋回性が、ここにきて仇になっているように感じます。ただ、2名乗車で左右のパニアケースにトップボックスという重装備も手伝い、重心が高くなっているので多少は仕方が無いのかもしれません。しかし、そういった状態になったとき、ライダー自身がリカバリーしにくい乗車姿勢になっているといることは問題だと感じました。

ライダーがふらつきを抑えて車体を安定させたいときには、車体に掛かっている自分の体重を少しでも低い位置に掛け(ステップへの荷重)、少しでも重心を低い位置にしようとします。ところがノーマルシートは、高い位置・低い位置どちらにセットしてもどっかり座らされてしまうシート形状なので、ステップに素早く荷重を掛けられないのです。これは日本標準装備のローシートの弊害なのではないか? そう思いました。ステップ位置に対し、シートの座面の高さを低くしていくと、膝の位置が高くなってしまいます。膝の位置が足の付け根に対し高くなっていくと、即座に動作へ移れなくなります。低いソファーと、カウンターにあるような高い椅子から立ち上がることを想像してみてください。ローシートは低いソファーだと考えていただくと分かりやすいかもしれません。

ライダーが車体を制御できる
基本動作が自然にできるシートを

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おまけに、以前にもお話したタンクをニーグリップしにくいシート形状。ステップワークやニーグリップというと、激しく走る人のテクニックのように思われるかもしれませんが、オートバイを操るための基本動作なのです。皆さんも免許を取るときに一本橋や波状路、スラロームから信号の右左折でもニーグリップとステップへの荷重や抜重を、しっかりと練習をしてきたはずです。ところがどうしたことか、このシートだとその基本動作がしっかりと出来ないのです。一般道に下りて、道路の陥没やマンホールなど滑りやすい状況に突然遭遇すると、座ったまま車体に身を預けることしか出来ません。BMWの車体設計がしっかりとしているので、極端に破綻することも無いのですが、ライダーが車体をコントロールすると言う意味では、あまり褒められたものではないと感じてしまいます。自分が作るシートは、この基本動作というごくごく単純でいて、重要な動作が自然に出来るような形状にしようと思いました。そのためにもニーグリップのしやすいシート前方の形状や、座面の高さをどうするかが重要になります。

まずは、座面の高さを決めてから全体の形状を決めていきます。ステップに立ち上がりシートの座面にお尻が付いた状態から、どっかりと座ったときに何センチ沈み込んでいるか、ヘルメットを基準にして何度も後ろにいる妻に確認してもらいました。ノーマルシートのスポンジは、必要以上に柔らかく、今まで自分が作ってきたシートに比べても沈み込み量が多いため、お尻へ伝わる路面からの情報が乏しく感じます。操作するという意味でもレスポンスの悪さが気になります。柔らかさは乗り心地を左右する重要な要素ですが、柔らかすぎると「うっ血」による痛みを感じたり、ポジション変更がしにくかったりと、いろいろな不具合が出てきます。もちろん硬すぎてもお尻が痛くなりやすくなります。沈み込み量を測れば、日本仕様や本国仕様でのシートの乗車位置がどの辺りになるのかも分かってきますし、これから作るシートのデータにもなります。当然と言えば当然ですが、本国仕様のシートでの乗車位置が設計時に想定していた乗車位置になるのでしょう。本国仕様の座面の高さにするならカタログデーターを見れば一目瞭然なのですが、スポンジの硬さや沈み込み量などはもちろん、乗車位置まではカタログデーターには記載されていません。体重によっても沈み込み量は変わってきますので、乗車位置も変わってきます。日本人とドイツ人では体格も違いますからね。ということで、自分なりにこのR1200RTというオートバイの理想の乗車位置を踏まえ、日本人の体系に合うシート形状を考える必要があります。

おおよその仕様が確定
ついに開発がスタートです

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この時点でぼんやりとですが、座面の高さをどうするか具体的な数値が出てきました。帰ってからは、厚みが違うスポンジの板で何度も乗車し、膝の曲がり具合、ハンドルとの位置関係、足つきなどを加味し、ノーマルシートよりも25mmほど高くしようと決めました。沈み込み量はノーマルシートよりも少なくなるでしょうから、結果、本国仕様のシートの乗車位置に近くなるはずです。ただ、ノーマルシートよりも座面が高くなるので、足を下ろすときに内腿に当たる部分など、形状には気を使わなくてはいけない部分もあります。取り付けの方法も気になるところです。

高さ調整が出来るようにするのは当然ですが、ノーマルシートのままの取り付け方法だと、車体とシートに一体感が感じられません。具体的にはシートベース自体の強度不足に加え、取り付け方法によるシートのぐらつきがあります。ライダーからの入力がシートと車体の間で途切れてしまい、車体へダイレクトに伝えられないのです。そのため「操作する」というオートバイに乗る一番の楽しさがスポイルされてしまっています。シート作りの話になるまで随分と時間が掛かってしまいましたが(笑)、取り付け方法を含めたシートの原型作りを次回から紹介していきたいと思います。

プロフィール
上山 力

32歳。東京都練馬区のシートの名店「K&H」に勤務。シートの開発を主に担当。自らが長い距離を走り抜き、シートを開発するため、彼の年間走行距離は尋常でないものに。

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