VIRGIN BMW | #17 全日本選手権 最終戦! S1000RRの楽しみ方

#17 全日本選手権 最終戦!

  • 掲載日/2011年11月11日【S1000RRの楽しみ方】
  • 文・写真/淺倉 恵介
S1000RRの画像

全日本ロードレース選手権の最終戦、鈴鹿サーキットで行われた MFJ グランプリに高田さんが参戦。前回の岡山国際サーキット大会では不本意な成績しか残せなかっただけに、期待が高まるところだ。今シーズンの締めくくりとなるレースで、高田さんと S1000RR はどんな走りを見せてくれたのか?

気合いを入れて乗り込んだ
得意の鈴鹿サーキットだったが…

さる10月30日、鈴鹿サーキットで全日本ロードレースの最終戦が行われ、僕も S1000RR で参戦してきました。このレースは「MFJグランプリ」と銘打たれており、それまでのレースでポイントを獲得した実績のあるライダーしかエントリーできない、他とは重みの違うレースです。鈴鹿サーキットは好きなコースですし、S1000RR で走った今年のレースの総決算として、気持ち良くシーズンを終えたい。そういった想いもあり、意気込んで鈴鹿に乗り込みました。ですが、前回の岡山国際サーキット大会からの悪い流れが続いていて、どうにもマシンがまとまらず、タイムも上げることができません。

僕が S1000RR で参戦している、全日本ロードレース選手権 JSB1000 クラスでは予選にノックアウト方式が採用されています。ノックアウト方式の予選とは予選を3段階に分け、決められた順位に達しなかったライダーは次の段階に進めないというものです。最初に行われるQ1では上位24位名が次のQ2に進出できます。25位以下のライダーは、ここで予選順位が確定するのですが、Q2に進出したライダーは一旦順位がリセットされ、再びタイムが争われます。ちなみにここでいう「Q」とは英語の「Qualify」の略で、予選を表す言葉です。

Q2 では上位12位に入るタイムを記録したライダーが、最終ステージである Q3 に進出。13位から24位のライダーは、この時点で予選順位が確定します。そして Q3 進出者の順位は再度リセットされ、改めて速いタイムを記録した順に予選順位が確定されるというシステムです。なぜ、こんな複雑な予選方式を採用しているかですが、予選にもゲーム性を取り入れて観客のみなさんに楽しんでもらおうという発想がもとになっています。

ここで重要なポイントとなるのが、タイヤの本数制限レギュレーションです。現在、JSB1000 クラスでは1レースで使用できるタイヤは3セットまでと決められています(今レースは2ヒート制のため4セット使用可能、レインタイヤは別カウント)。3セットで予選、決勝前のフリー走行、決勝レースを走りきらなければならないのです。何千キロから何万キロといったマイレージが前提の公道用タイヤと違い、レース用のタイヤはわずか数十キロでその寿命を使い切ってしまいます。1レースの走行距離を考えると、3セットというのはかなりギリギリな数字なのです。しかも、選んだタイヤは後からの変更ができません。レース用タイヤには様々な特性を持ったものが用意されていますから、レース前にじっくりと走り込んで、マシンのセッティングに合ったタイヤを選びだしておくのも、レースの重要なポイントなのです。

更にここで、ノックアウト方式の予選との関連性が重要になってきます。ノックアウト方式では、各Qセッションで順位がリセットされますから、それぞれのQセッションで高い順位を狙う必要があります。本来ならセッションごとに新品タイヤを履きたいくらいですが、タイヤ本数制限があるため決勝レースを考えるとそうもいきません。予選から決勝レースまでを見据えたタイヤマネジメントが必要になるわけです。そういう事情を頭に入れて見ると、予選も随分面白いものです。レースは、決勝だけでなく予選日から観戦すると、より一層楽しめると思います。

さて、今回のレースの話に戻ります。今回のレースは2ヒート制で、Q1 の順位がレース1の予選順位となり、Q3 までの最終順位がレース2の予選順位となることになっていました。2ヒートあることで、1レースあたりの周回数は少なめですから、予選は尚更重要です。練習走行でマシンを詰め切れないまま挑んだ予選ですが、やはり思うようにはタイムを上げることができません。

僕は、ここで賭けに出ました。Q1 の途中で一度ピットに戻り、リアタイヤを交換したのです。交換したタイヤは以前使用してフィーリングが良かったものだったのですが、今回は別のタイヤでセッティングを進めていたため、あくまで「念のため」に用意していたものでした。ですが、この選択が当りタイムアップに成功。なんとか Q2 進出に成功しました。さすがにタイヤに合ったセッティングもしていない状態では、それ以上は望めず Q2 で予選を終えました。決勝グリッドはレース1、レース2ともに21番。良い順位とは言えませんが、タイムは2分13秒台に乗せることが出来て、ホッとしました。

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予選中にリアタイヤを交換するという作戦が功を奏し、なんとかタイムアップに成功。予選Q1の走行時間は約40分。マシンは8耐に使用した車両そのものなので、足周りはクイックリリース化されており通常の車両に比べタイヤ交換は容易だが、タイヤを暖めタイムアタックすることを考えれば、ギリギリの決断だった。
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予選Q2までは進出、タイムも2分13秒7まで持ち上げたが、予選順位は21位。高田さん的に、当然納得がいく結果ではない。予選後の表情は厳しいままだ。

決勝レース直前の雨
逆境こそチャンス

迎えた決勝レース。この日は朝から曇り空で、天気予報でも午後から降水確率が上がるとされていました。レース1の開始時刻は午前11時過ぎ。ポツポツと雨粒が落ちてくる中、グリッドに着きレース開始を待っていると、急に雨脚が強まりウェット宣言が出ました。待ちに待った恵みの雨です。一般的に雨が好きなライダーは少ないと思いますが、レースに関していえば僕は雨が大好きです。ウェット路面はマシンの戦闘力の差を縮めてくれます。乗り手次第の要素が強いのなら、僕が頑張れば良いだけです。

タイヤをレインタイヤに履き替え、再びグリッドに向かいます。急な雨だったため、ウェット路面に慣れるためにと5分間フリー走行も設けられたのですが、僕はピットで待機することを選びました。レインタイヤを消耗させることを嫌ったのですが、このあたりはライダー個々の判断に任される作戦の部分です。

決勝レースではスタートが決まり2列くらいをごぼう抜き、1周目を走り切る頃には14位あたりを走行していました。そのまま順調に走り、更に順位を上げることが出来て、レース1は12位でフィニッシュしました。予選までの迷走を思えば、これ以上ない結果です。良いムードでレース2に望みます。

レース2までは3時間ほどのインターバルがありますが、ここでまた一計を案じます。早々にタイヤを交換し、じっくりとタイヤウォーマーで暖めてみました。雨での走行が前提のレインタイヤは、ドライ用のスリックタイヤと違い、それほど高温を必要としないものです。むしろ暖め過ぎると、早々に寿命が尽きてしまうというのが定説。ですが、最近のレインタイヤは暖めて使った方が性能が発揮できるとの情報があり、それに賭けてみました。実際に、タイヤを暖めずに挑んだレース1では、タイヤが冷えた状態の走り始めより、タイヤが暖まったレース後半の方が良い走りができました。なので、2時間近くの時間をかけて、しっかりと暖めます。これはドライ用タイヤでも、長いくらいの予熱時間です。

この作戦が当たりました。レース2では会心のダッシュを決めることができて、スタートで一気に10番手近くまでポジションアップ。雨の中ですが、ガンガン攻めることができて、久々に気持ち良く走ることができました。じりじりと順位を上げ、ゴールしてみれば順位は9位、念願のシングルフィニッシュの達成です。全日本での S1000RR のベストリザルトを更新できたのは、とても誇らしく思います。

最高の結果でシーズンを締めくくることができて、本当に嬉しいレースでした。レースは一人では出来ません、今回のレースにも多くの方が手伝いに来てくれていました。駆けつけてくださった皆さんにも喜んでもらえたのではないかと思います。僕と S1000RR の今シーズンのレースは、ここで終了となります。全日本、8耐と年間を通じてサポートしていただいたスポンサーの方々、そして声援をくださったファンの皆さん本当にありがとうございました。

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すっかり雨模様となった決勝レース、グリッド上で傘を差し出すキャンギャルの2人も寒そうだ。革ツナギの上には専用のレインウェアを着用。動きやすさが変わるため、レインウェアを着ないライダーもいる。
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レース1とレース2の間で、レインタイヤを充分に予熱。気温が低めだったため、ボディカバーなどを使いタイヤウォーマーの熱を逃さないように対策している。
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雨の中、力走する高田さん。レース1、レース2ともに絶妙なスタートダッシュを決め、危なげない走りで着実に順位アップ。見事なレース展開だった。
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相変わらず少数精鋭のチーム体制なので、例の如く高田さんはメカニックも兼任。これは、セッティングシートに合わせて、リアショックの設定を確認しているところ。
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スクリーンには、先日レース中のアクシデントで亡くなった、モトGPライダー マルコ・シモンチェリ選手のステッカーが貼られていた。
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地元鈴鹿のBMWディーラー、モトラッド鈴鹿のマイスター岩間さんが助っ人メカニックとして駆けつけた。岩間さんは 【Team Tras】 で、高田さんと共に8耐を戦い、松下ヨシナリ選手の S1000RR でのマン島挑戦でもメカニックを務めている。
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決勝前のフリー走行で、セッティングを確認。この時点では、まだ雨は降り出しておらず、ドライコンディションでのレースが想定されていた。
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レース1とレース2の間に行われたピットウォークには、雨の中多くのファンが参加。
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華やかなピットウォークの裏側、ピット内ではチームのクルーがお昼ご飯。ケータリングを利用するチームもあるが、高田さん達は自炊派。決勝日のメニューはカレーライスだった。
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レース前、精神を集中させる高田さん。得意の雨のレースのせいか、いつものレースより表情は明るい。
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レース2終了間際、無事ゴールすれば好リザルトは確実という状況。チームクルーの視線は、順位が表示されるモニターに釘付けだ。
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無事完走を果たし、ピットに帰ってきた高田さんを拍手で迎えるチームクルー。
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ヘルメットを脱ぐ間も惜しみ、チームクルーとハイタッチをかわす高田さん。「レースは皆の協力があってこそ…」が口癖の高田さんらしい。
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レース後の後片付けでも、いつも通り先頭に立って働いていた高田さん。高田さんのトランポは、リフト付きのマイクロバスで、バイクの積み降ろしもラクに行える。
国際ライダー MFJ公認インストラクター
高田 速人
バイクのタイヤとメンテナンスの専門店「8810R」代表。1976年生まれ、東京都出身。中学2年でミニバイクレースを始め、高校卒業後はロードレースにステップアップ。1996年に国際ライダーへと昇格、全日本選手権や鈴鹿8時間耐久レースなど、豊富なレース経験を持つ。2010年は 【Tras & G-TRIBE + 8810R】 チームによる、S1000RR鈴鹿8耐への挑戦にライダーとして参加。2011年は S1000RR を駆り 、【Team Tras】 の第1ライダーとして鈴鹿8耐に参戦。15位獲得に貢献した。
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