VIRGIN BMW | BMWの確信的異端児 G650 Xシリーズの真実 特集記事&最新情報

メインフォト

近年のBMWらしい割り切り
趣味性の高さが魅力のG650 X

2007年5月に国内販売が始まったG650 Xシリーズ。エンジンと車体を共通としながらも、エンデューロモデルのX challenge(クロスチャレンジ)、モタードモデルのX moto(クロスモト)、スクランブラーのX country(クロスカントリー)という、それぞれ違った個性を持つ3台が同時リリースされ、話題となった。

 

しかし、エンジンが旧F650GSと同一だったためか、その後継もしくは派生モデルとして見られることも多かった。また、先ごろデビューを果たした新型F650GSはF800シリーズと同様の並列2気筒エンジンを採用したため、既存ユーザーにとってはこのシリーズのポジショニングが理解し難いものとなっているのではないだろうか。結論から先に言ってしまうと、G650 Xシリーズは旧F650GSシリーズの後継モデルではないし、ましてや新F650GSと比較されるべき存在でもない。語弊を恐れずに言うなら、HP2シリーズに匹敵するほど趣味性が高くスポーティーなシリーズ、それがG650 Xなのだ。今回の特集ではこのシリーズの魅力を再認識すべく、改めてこの個性的な3台にスポットを当ててみたい。

G650Xシリーズとは

共通のエンジンと車体を持つ
超個性的な3モデルがG650 Xだ

エンジンG650 Xシリーズに搭載されるエンジンは、旧F650GSの水冷単気筒エンジンをリファインし、単体で2kgの軽量化と3馬力の出力向上を果たしたロータックス製ユニットだ。ボア100mm、ストローク83mmで排気量は652cc。最高出力は53ps/7000rpm、最大トルクは60Nm/5250rpmを発揮し、潤滑はドライサンプ方式という基本構造も旧Fシリーズから受け継いでいる。よりビビッドになったエンジン出力を受け止めるのに十分な剛性を確保したフレームはアルミとスチールの4ピース構造。サブフレームを介してボルトで連結される方式も3モデル共通となっている。そう、G650 Xシリーズの基本構成はまったく同じで、サスペンションやホイール、ブレーキなど、主に足周りのパーツを変更することにより、それぞれに独自のキャラクターを持たせているのだ。

 

 

しかし、「違いは足周りだけ」と侮ってはいけない。各モデルの方向性はシンプルで明快。まったく違うモデルと言ってもよいほどの個性を放っている。また、新旧F650GSが何にでも使える汎用性とツーリング性能を重視しているのに対して、G650 Xシリーズは近年のBMWを象徴する割り切りを見せている。実用性や利便性を潔くあきらめ、ひたすら走る喜びを追求したシリーズだと言える。以下の章では各モデルのキャラクターを説明しよう。

 

詳細写真

17、19、21インチと3台3様のフロント周り。ブレーキの違いにも注目。顔つきにも各モデルのキャラクターが色濃く反映されている。

詳細写真

G650Xシリーズに共通するサブフレーム。フレームの部材を結合し、リアサスの衝撃を受け止める役割を担っている。

詳細写真

スイングアームピボットとスプロケットを極限まで近づけ、チェーンの遊びを少なくしている。レスポンスを向上させる効果もある。

G650Xchallenge

本格エンデューロモデル
G650 X challenge

G650Xchallengeフロントに21インチ、リアに18インチホイールを採用し、前後ブレーキには排土性に優れるウェーブディスク、リアサスペンションにはHP2エンデューロと同様のエアサスペンションを装備しているのがG650 X challenge(以下、X challenge)だ。この構成から言ってもこのモデルが只者でないことが分かる。930mmというシート高は本格的なモトクロッサー並みで、HP2エンデューロよりも高い。長身のライダーでもつま先が接地するのがやっと、という足付きだ。ウインドプロテクションや積載能力に至っては皆無。潔く実用性を捨てた割り切りや前後サスペンションの構成から、F650GSとの類似性は無いと言って良く、ひたすらオフロード性能を追求した構成はむしろHP2エンデューロに近いものを感じる。

 

 

低速から十分なトルクと良好なトラクションを発揮するエンジンと、旧F650GSダカールとの比較で40kgも軽量化された車体の組み合わせは、走り出してしまえば非常に扱いやすい。しかし、HP2エンデューロをも超えるシート高はライダーにそれなりの技量を要求するだろう。特にオフロードでは足付きの悪さなど気にせず、前後の長い脚を武器として扱えるテクニックが最低限必要となる。乗り手やステージによってはHP2エンデューロを超えるパフォーマンスを発揮するであろうX challengeは、オフロードを守備範囲とするBMW現行ラインナップの中にあって、もっとも辛口の味付けをされている1台と言える。

 

詳細写真

フロント21インチ、リア18インチのオフロード車然とした構成。最低地上高とシートの高さから、走破性の高さが窺える。

詳細写真

タンデムや荷物の積載は考慮されていないことが分かるリアビュー。リアにはHP2エンデューロ同様のエアサスペンションを採用。

詳細写真

身長175センチ、体重75キロのテスターでも足付きはつらい。リアサスの空気圧を調整することにより、足付きは調整可能。

詳細写真G650 X challenge SPECIFICATIONS

■全長 = 2,205mm  ■全幅(ミラー除く) = 825mm

■ホイールベース = 1,500mm  ■シート高 = 930mm

■車両重量(満タン・走行可能状態) = 159kg

■燃費(120km/h走行時)ISOモード100km低速走行 = 19.6リットル

■フロントタイヤサイズ = 90/90-21g

■リアタイヤサイズ = 140/80R18

■価格(税込) = Active Line/113万5000円

          Hi Line(ABS)/124万円

G650X moto

コーナーリングを楽しむための
モタードモデルG650 X moto

G650X moto前後17インチキャストホイールやオンロード用ハイグリップタイヤ、320mmの大径フロントブレーキディスク、ブレンボ製対向4ポッドキャリパーで武装したモタードモデルがG650 X moto(以下、X moto)だ。シリーズ唯一のフローティングディスクを採用していることからもこのモデルのキャラクターが窺い知れる。実は、シリーズに共通する652ccシングルエンジンは、積極的に回して速度を上げるのが楽しいパワーユニットだ。DOHCゆえ、高回転域までストレスなく回り、高速道路の流れをリードすることすら可能だ。これは旧F650GSにも共通する美点であるが、G650 Xシリーズの味付けはもっと刺激的。一発一発の燃焼が地面を蹴飛ばすような感触が強いのだ。

 

 

このパワーユニットに高い剛性の足周りを組み合わせて、街中や峠道のコーナーリングを楽しもうというのがこのモデルの明快なコンセプトだ。この目的のために不要なものはすべて排除する姿勢はX challengeと同様で、実用性や利便性は無いに等しい。その甲斐あってか、X motoは走ること自体を目的化する刺激に満ちた仕上がりとなっている。ビッグシングルのトラクションと高性能タイヤのグリップを活かして峠道を駆け上がり、高い速度を維持したまま落ちていくように下りのコーナーリングこなす。さまざまな方向にモデルを拡充してきたBMWの中にあっても、これは軽量なX motoでしか味わえない楽しみだ。乗りやすく、街中でも良き遊び相手になってくれるモデルではあるが、そのコンセプトはHP2メガモトにも通じるスパルタンなものである。

 

詳細写真

前後17インチホイールに大径ブレーキディスクを装備。キャリパーはブレンボ製、ホイールはアプリリア製だ。

詳細写真

X challengeと同様のフラットなシートデザイン。リアサスペンションはザックス製ユニットをリンクレスで搭載している。

詳細写真

シート高はリアサスの調整で880mm~900mmの間で調整可能。マフラーや灯火類のデザインは全車共通。

詳細写真G650 X moto SPECIFICATIONS

■全長 = 2,155mm  ■全幅(ミラー除く) = 825mm

■ホイールベース = 1,500mm ■シート高 = 880mm-900mm

■車両重量(満タン・走行可能状態) = 164kg

■燃費(120km/h走行時)ISOモード100km低速走行 = 20リットル

■フロントタイヤサイズ = 120/70-17

■リアタイヤサイズ = 160/60R17

■価格(税込) = Active Line/115万5000円

          Hi Line(ABS)/126万円

X country

極めて優秀なスクランブラー
G650 X country

G650X motoフロント19インチ、リア18インチのホイールにオンオフタイヤを装着したスクランブラー的仕上がりのモデルがG650 X country(以下、X country)だ。3モデルの中で唯一標準状態でタンデム可能であり、わずかながら積載性も考慮していることから、最も汎用性がありユーザーフレンドリーなモデルであると言える。しかし、このX countryは単に優しいだけのモデルではない。確かに3モデルの中では一番楽に乗れるが、一台のスクランブラーとして評価した場合、X countryも非常にスポーティーな1台に仕上げられているのである。

 

 

軽量コンパクトな車体とトルクフルなエンジンの組み合わせは、普段大型バイクに乗りなれているライダーなら、跨った瞬間から自由自在に操れると直感するはずだ。ハンドリングも自由度が大きい上にニュートラルなので、自然にライディングはアグレッシブになる。結果的に街中を含むオンロードではかなりの速さを発揮するのだが、こればかりは体験してみないことにはなかなか理解されない部分であろう。この印象はオフロードでも変わらない。恐らくオンロード主体のライダーやビギナーがオフロードに足を踏み入れる場合は、X challengeよりもずっと速く走れることだろう。3兄弟の中では一番乗りやすいマシンに仕上がっており、大型バイクのビギナーにも安心してお勧めできるモデルであることは事実だが、それはこのオンオフ問わず速く楽しく走れるというスクランブラーの性能を純粋に追求した結果に過ぎないのだと感じる。

 

詳細写真

フロント19インチ、リア17インチホイールにオンオフタイヤを装着。シート形状は兄弟モデルと大きく異なることが分かる。

詳細写真

サスペンション構成はX motoと同様だが、フロントに調整機構はない。小ぶりなキャリアを装備し、最小限の積載性を確保している。

詳細写真

シート高はリアサスの調整で840mm~870mmの間で調整可能。マフラーはビッグシングルらしい排気音を奏でる。

詳細写真G650 X country SPECIFICATIONS

■全長 = 2,185mm  ■全幅(ミラー除く) = 860mm

■ホイールベース = 1,498mm ■シート高 = 840mm-870mm

■車両重量(満タン・走行可能状態) = 168kg

■燃費(120km/h走行時)ISOモード100km低速走行 = 20.8リットル

■フロントタイヤサイズ = 100/90-19

■リアタイヤサイズ = 130/80R17

■価格(税込) = Active Line/109万5000円

          Hi Line(ABS)/120万円

高純度な3台のスポーツモデル
それがG650 Xシリーズだ

3台を順番に見てきたが、このシリーズが汎用性やツーリング性能を考慮した新旧のF650GSシリーズとはまったく異なるコンセプトで構築されていることがお分かり頂けただろうか。

 

G650X motoBMWは、このシリーズを既存ユーザー以外のライダーに向けてリリースしたと言われている。確かに、ワイドオープンを許容するエンジンの扱いやすさや、ABSの設定、低重心を狙った燃料タンク位置などに辛うじてBMWらしさが感じられるものの、各モデルのキャラクターを分析してみると、他メーカーへの対抗心が見て取れる。エンジンと車体を共通化したのは、新規ユーザーに向けて魅力的な価格を提示するためのアイデアに過ぎなかったのかもしれない。また、近年のBMWハイパフォーマンス路線の象徴がHP2シリーズであることは疑いようもない事実だが、ミドルクラスでその役割を担っているのがG650 Xシリーズであるように感じるのである。可能であれば是非ともG650 Xシリーズに試乗していただきたい。そうすれば、このシリーズがグレードの高いパーツで固められた高純度のスポーツモデルであることがご理解いただけるのではないかと思う。