VIRGIN BMW | 【徹底検証】G310Rを丸裸にする!エンジンとフレームの詳細解説 特集記事&最新情報

防水透湿素材「D-Dry」から見えてくるダイネーゼの研究開発能力
取材協力/BMW Motorrad Japan  Text / Tomoya Ishibashi  Photo / Toru Hasegawa
※この記事はBMW BIKES Vol75(2016年6月15日発売)に掲載した特集を再編集したものです。
掲載日/2017年6月2日
ついに日本市場へ登場するG310R。前方吸気・後方排気エンジンがどのような造形をしているのか、フレームの構造はどんなものなのか? ここからはG310Rの外装を取り払い、エンジンやフレーム構造について深く考察していく。

エンジン/ENGINE

前方吸気・後方排気の後傾シリンダーは
実に合理的な構成だ

後傾シリンダーという独特のレイアウトを持つG310Rの4ストローク水冷単気筒DOHC4バルブ、ボア×ストローク=80×62mm、313ccエンジン。前方吸気・後方排気は通常のエンジンと180度逆さだ。このような後傾シリンダーを採用したのはダウンドラフトストレート吸気、マスの集中化、前後荷重の適正なバランスなどを狙ったからだ。似たレイアウトはヤマハのモトクロッサーYZ450F/250Fが有名で、ストリートモデルでは他に覚えがない。後傾角はヤマハが7.5度で、G310Rは未発表ながら、ほぼ近いだろう。ヤマハがオフロードモデルで前方吸気・後方排気の後傾シリンダーを採用した理由はまだあって、通常の後方吸気だと大きなリアショックが邪魔してストレート吸気で大型エアボックスを収めることがなかなか難しいからでもある。この問題を極端な前傾シリンダーで解決したのがフサベルだった。

G310Rは排気管が前になく、吸気系はエンジン上に持ち上げているから、ラジエータは無理なく車体に収められ、フロントタイヤとのクリアランスも確保された。エンジン前後長も短いから、ショートホイールベースながらもロングスイングアームで、旋回性、直進安定性、ロードホールディングの良さなどをバランス良く成立させている。

Rearward-Slanting Cylinder =後傾シリンダーが前方からの理想的なダウンドラフトストレート吸気を可能にしている。特別新しい技術ではないけれども、発想の豊かさを感じるエンジンだ。

クランクシャフトとミッションの2軸が前後に圧縮された配置でエンジン前後長が短い。クランク前には1軸1次バランサーシャフトを装備して振動を低減。右クラッチ、左チェーンの配置だ。

エアボックス/AIR BOX

ダウンドラフトストレート吸気を巧みにレイアウト

S1000系などスーパースポーツモデルでは、シリンダーをやや前傾させたダウンドラフトストレート後方吸気を採用し、エアボックスはフューエルタンク前半部分を占領する。後傾シリンダーのG310Rでも、タンクカバー内の前半約1/3はエアボックスだ。このため吸気系は前方斜め上からストレートになる。

エアボックスへの吸気は右前のダクトからだ。エアボックス内には板状のエアフィルターを装備。ここからスロットルボディへ新気が送られる。高さが出やすいレイアウトなのだが、コンパクトにしかも整備性の良い配置・構造になっている。ライトウェイトモデルでも設計は最先端なのだ。

タンクカバーを外すと後半約2/3を占める11L のフューエルタンク(写真左。材質はスチール)と、残る前半部のエアボックス(写真中央)が顔を出す。エアダクトは右側のみ。エアボックスからは板状のエアフィルター(写真右)が簡単に取り出せる。フューエルホースの接続はクイックコネクターでタンク脱着も楽だ。そしてタンク本体を外せばシリンダーヘッド部が出てくるのでスパークプラグ交換も簡単。整備性の良さは特に新興国では非常に重要だ。

吸気&排気/INTAKE&EXHAUST

後方排気はシンプルな取り回し。サイレンサーは大容量

スロットルボディはエアボックス下にあり、バタフライバルブ式でφ42mm。バルブ径は吸気φ33.5mm、排気φ27.2mmで、バルブ挟み角は吸気11.2度、排気13.3度。

DOHC4バルブはカム+ショートロッカーアーム(DLCでコーティング)を持つ構造で、これらはS1000系の技術だ。またピストンピンもDLC処理済み。イグニッションコイルはプラグキャップ一体のダイレクト式。

排気管の取り回しは少し後方に出してから下がって右に出すシンプルな取り回しで(エアボックスなど大物がないためだ)、途中に大きなチャンバーを持たない。排気管の長さと容積を稼ぐため、サイレンサーは大容量になる。

ダイレクトイグニッション方式なのでハイテンションコードはない。EFIなどエンジンコントロールシステムはBMS-E2を採用する。

通常、後方排気は排気管の取り回しが複雑になるが、G310Rはスペースに余裕があるためかシンプル。リアショックとの厳しい干渉もなく、ショックユニットへの熱害も小さいはず。

クランクケース/CRANK CASE

アッパーケース一体シリンダーで内面はニカジルメッキ

シリンダーはアッパークランクケース一体で、ライナーはニカジルメッキされる。そのシリンダーはオープンデッキ。この構造は燃焼室の冷却効果に優れ、生産性でも有利だ。反面、クローズデッキと比較するとシリンダー上部の強度が劣るけれども、G310Rのように高回転高出力型ではなく、レース用にハイチューンで圧縮比を狙うエンジンでもないので、これで充分過ぎる。何しろ最高出力34hp/9,500rpm、圧縮比10. 6:1、10,500rpmが上限というエンジンなのだから。

このエンジンはダウンチューブを持たないチューブラーフレームに搭載されているけれども、このためエンジン前部や下部にフレームがなく、エンジンの補器類の配置にも有利だ。オイルパン容量もしっかり確保できる。セルモーターはエンジン前部に、ウォーターポンプは右前部にある。ラジエータもごく普通の平らな物が1枚。シンプルな配置で、ツメようと思えばまだまだできそうなのだ。今後、配置やパーツを変えれば、派生モデルがデザインしやすいともいえる。プラットフォームとしての余裕と可能性を秘めている。

クランクケースは上下分割式で、シリンダーはアッパークランクケース一体式で強度と軽量化を達成している。スリーブはBMWの伝統でニカジルメッキ。低抵抗で高い耐久性を持つ。

アッパークランクケース一体のシリンダーがオープンデッキ構造なのが良くわかる。2本のカムはチェーンで駆動。クランクシャフト左にACGを配置。

オイル潤滑方式はウェットサンプでオイルパン容量も充分。6速ミッションのチェーンドライブ(シールチェーン)。クラッチは湿式(ワイヤ式)。

シャーシ/CHASSIS

扱いやすく軽快な走りを予感させるスリムな車体だ

独特の後傾シリンダーを生かし、ショートホイールベース(1,374mm)、ロングスイングアーム(650mm)を可能にしたのが、このチューブラースチールフレームだ。エンジン前と下にパイプを持たないのでフロントホイールを無理なくエンジン側に追い込め、かつ充分なグラウンドクリアランスを確保できている。

構成はシンプルなトラスで、エンジンを上から抱きかかえるようにマウントする。シートレール部はボルトオン。シート高は785mmが標準で、ロー760mm、ハイ815mmのオプションシートを設定している。スイングアームはアルミ鋳造の両持ち。フロントフォークは倒立φ41mm。リアショックユニットはやや前傾され、リンクレス。ホイールストロークはフロントが140mmとやや長めで、リアは131mm。スポーツ性ばかりではなく、荒れた舗装路面でのロードホールディングや乗り心地も考慮した設定だろう。ブレーキはABSを標準装備。フロントがφ300mmディスク+4Pキャリパー、リアがφ240mmディスク+2Pキャリパー。

シングルを生かしたスリムで乗りやすそうな車体、そして車重は走行可能状態で158.5kg。これで軽快に走らないわけがない!!

丸パイプをトラス状に組んだフレーム。ボルトオンのシートレールも丸パイプで、タンデムや荷物の積載を考慮して強度は高そう。サイレンサーはこの排気量にしては大容量。これは途中にチャンバーを持たないため、必要な容量・長さをここで確保するためだろう。スリムな車体なのでシート高の数値以上に足着き性・跨ぎ性が良い。ライディングポジションもスポーティとリラックスさを兼ね備え、これなら誰でもが安心できる。

ハンドルは一般的なミリバーを採用。また、ハンドル切れ角も充分に確保されていて取り回しも楽だ。

シート下にはバッテリーを配置。12V/8Ahのメンテナンスフリータイプを採用する。

スイングアームピボット部にはアルミ製のガードを装着。

ストローク131mmのリアサスはリンクレスで取り付けられる。

BMW Motorrad G310R ストラト・ブルー・メタリック 58万円(税込み)