VIRGIN BMW | K1600GTL(2011-) 試乗インプレ

K1600GTLの画像
BMW Motorrad K1600GTL

K1600GTL(2011-)

  • 掲載日/2011年10月06日【試乗インプレ】
  • 取材協力/BMW Motorrad Japan  写真/山下 剛  取材・文/中村 友彦

並列6気筒に対する概念を覆し
2輪業界に新しい風を巻き起こす

今年度から発売が始まった K1600GTL は、ベネリ・セイ(1976年~)、ホンダ CBX (1978年~)、カワサキ Z1300 (1978年~)、ホンダ GL1500/1800 シリーズ(1988年~)に次ぐ、量産モーターサイクルの世界では5番目の6気筒エンジン搭載車である。100年を超える2輪の歴史の中でたったこれだけ? と思う人がいるかもしれないが、“寸法が大きく、重量が重くなりがちな6気筒は、量産モーターサイクルには不向き” というのが、2輪業界における昔からの定説で、前述した4台の中で大成功を収めたのは、水平対向という特殊なエンジンレイアウトで独自の地位を確立した GL1500/1800 シリーズだけだった。ではどうして今、BMW は新たに6気筒車を開発したのだろうか。それもピストンが同一直線上にズラリと並ぶ並列(BMWの表現では直列)配置で…。

その答えとしては、まずブランドイメージの向上という要素が挙げられるだろう。このエンジンなら4輪業界で BMW の代名詞となっている “ストレート6” との関連性が持たせられるし、近年の2輪で唯一の形式となれば、他メーカーにはない独自性をアピールできる。しかしそれ以上に重要な要素は、現代の BMW の技術力なら、かつてとは比較にならないほど、小さくて軽い並列6気筒が作れるから、ではないだろうか。事実、K1600GTL に搭載されるエンジンは、並列4気筒の K1300 に対して、全幅は8cm、重量は17kgしか増えていないのだ。もっとも、K1600GTL の車格はその数字から想像するよりはるかに大柄に設計されているものの、BMW が総力を結集して生み出したこの並列6気筒車は、技術的には停滞している感のある近年の2輪業界に、新しい風を巻き起こしてくれそうな気配が濃厚なのである。

K1600GTLの特徴

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ワープを思わせるジェントルな加速は
他のエンジンでは実現できない世界

K1600GTL の 160ps という最高出力は、少し前にカタログから姿を消した並列4気筒の K1300GT と同じである。しかし当然ながら、フィーリングはまったく違う。1/2次振動を完全に解消できる並列6気筒を搭載する K1600GTL のほうが(並列4気筒は2次振動が残るため、K1300 シリーズを筆頭とする昨今の大排気量車はバランサーを採用するケースが多い)、圧倒的にウルトラスムーズで、もちろんこのあたりは、ある程度は事前に想像していたことだったけれど、実際にこのフィーリングを体験したら誰だって、4つの気筒が 180 度間隔で爆発するのと6つの気筒が 120 度間隔で爆発するのでは、こうも違うのか! と心から驚くはずだ。

何と言うか、K1600GTL の加速は常にふわっと軽やかで、ワープみたいなのである。ハイパワーな並列4気筒ビッグバイクでよく感じる、乗り手を脅かすような2次曲線的な加速力や、後ろから蹴っ飛ばされるような感触などはほとんどなくて、いついかなるときもシュルルルーッとジェントルに加速していく。だから最大トルクが 175Nm もあるのに( K1300GT は 135Nm )、どの回転域でも臆することなくスロットルを開けることができるし、このエンジンの最もオイシイ部分である 5,000~8,500rpm も気軽に使えてしまう。個人的にはこういったフィーリングがもっと小さな排気量で楽しめればいいのに、と思わないでもないけれど、フラッグシップとしての存在意義や市場におけるインパクトを考えれば、BMW の選択は間違いとは言えないだろう。

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さて、どうしてもエンジンの話が先行してしまいがちな K1600GTL だが、この車両にはすでに既存のKシリーズやRシリーズで実績を積んだDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)や ESA II (エレクトリック・サスペンション・アジャストメント)に加えて、エンジンモード切り替え機構(ロード/ダイナミック/レインの3種)、車体の進行方向を照らすアダプティブヘッドライト、さまざまな情報と設定を簡単に操作できるマルチコントローラーなど、電気系の革新的技術が数多く導入されている。これらは海外ではオプション設定とされることもあるようだが、日本仕様ではほぼすべてが標準装備として販売される。

K1600GTLの試乗インプレッション

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驚異的に軽快なハンドリングと
電装系技術に感じる未来

あまりにも画期的な要素が多いため、どこを切り口としていいかで悩んでしまう K1600GTL だが、実際に試乗した僕の中で最も印象的だったのは、とてつもなく軽快なハンドリングだった。“動き出せば重さを感じない” とは、昔から重量車の乗り味を語る際によく使われる言葉だけれど、K1600GTL の場合はそれどころの話じゃない。もちろん、市街地や高速道路では装備重量 355kg なりの重さと安定感を感じる。しかし、ひとたび峠道に足を踏み入れると…ギュインギュイン曲がるのである。極上の接地感を維持したまま、車体が右へ左へパタンパタンと簡単に寝てくれる。車重やディメンション(ホイールベースは 1,620mm )、並列6気筒ならではのクランクシャフトの長さを考えれば、これは物理的にはあり得ないことなのに、BMW の技術力は物理の壁を打ち破ってしまったのか?

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ただし、この点については諸刃の剣と言えなくもないのだった。ここ3ヶ月の間に僕が同業者十数人に K1600GTL のハンドリングをどう思うか聞いてみたところ、約半分は前述したコーナリング性能を絶賛したものの、一方の約半分からは “節度がない”、“軽すぎて怖い” といった意見も出てきたのである。となると、現状の軽快感はちょっとやり過ぎ…のような気がしないでもないが、“6気筒特有のネガティブな要素は一切出さない” という BMW の意気込みが猛烈に伝わってくる現状の乗り味は、これはこれでひとつの正解だと僕は思っている。

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ハンドリングに続いて僕が感心したのは、左スイッチボックスの横に設置されたマルチコントローラーだった。このパーツの使い勝手の良否を率直に述べるなら、まだまだ熟成の余地はあると思う(説明書を熟読せずにきちんと操作するのは絶対に不可能)。しかし 2010年型 R1200RT に初採用された時点では、単なるオーディオ調整用に過ぎなかったこのコントローラーは、K1600GTL では ESA II やシート/グリップヒーターなどの調整、さらにはオンボードコンピュータの情報操作という役割も併せ持つ、多機能コントローラーに進化を遂げていたのである(本国仕様ではナビゲーションシステムの操作も可能)。そしてこれを回転させたり捻ったりしながら、TFT カラーディスプレイに表示される情報/設定をいじった僕は、オートバイの試乗で久しぶりに未来を感じた。同時に、今の BMW は “日本車に追いつき追い越せ” ではなく、すでにもう追い越しているんじゃないか、という気持ちになってしまった。

こんな方にオススメ

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若き日の気持ちを忘れない
40~50代の(裕福な)ベテランライダーに

誰にオススメできるかを考えてみたところ…。ふと僕の頭に思い浮かんだのは、若い頃はレーサーレプリカでスポーツランに没頭したものの、最近はハーレーのツーリングファミリーやホンダ・ゴールドウイングなどに乗る、仲間とロングツーリングを楽しんでいて、でもやっぱり “ここぞ” というときには飛ばしたい、と考える 40~50 代の裕福なベテランライダーだった。もちろん、単に最新技術で作られたグランドツアラーを味わってみたい、というライダーにもオススメはできるけれど、周囲に対するハッタリ的な要素を一切気にしないなら、日本の道路事情の中では、K1600GTL は必ずしもベストとは言い切れない気がする(気持ちよく走っていると、すぐに警察に捕まりそう)。

K1600GTL の詳細写真

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車体のピッチングやバンク角に応じて光軸を上下左右に変化させるアダプティブ式ヘッドライトはオートバイ業界初の装備。電動式スクリーンは無段階の高さ調整が可能だ。
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シートは前後一体式だが、シートヒーターは前後別々に温度を調整することができる。トップ/パニアケースの集中ロックは、右側スイッチボックスのボタンかリモコンキーで行う。
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4輪の技術を注入したストレート6は、1,500rpm で最大トルクの70%を発揮。スロットル操作はケーブルを持たないライド・バイ・ワイヤ式で、エンジン特性はレイン・ロード/ダイナミックの3つのモードから選択できる。
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車体搭載時のシリンダー前傾角は K1300 シリーズと同じ55度で、エンジン全幅はたった 555mm しかない(近年の大排気量並列4気筒よりわずかに広い程度)。潤滑はドライサンプ式、オイルタンクはエンジン後部に設置。
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コクピットの洗練度はさすがBMW。さまざまなシステムが装備されているのに、猥雑な雰囲気は一切ない。ビルトイン式のナビゲーションシステムには、盗難防止対策も盛り込まれている。
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アナログ式速度・回転計の間に設置される TFT カラーディスプレイは、トリップ・オドメーター、燃料残量、ギアポジションといった基本情報を表示するだけではなく、DTC や ESA II 、エンジン特性、グリップ/シートヒーターなどの調整時にも使用。
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スイッチボックスとグリップの間に見えるドーナツ状のパーツがマルチコントローラー。これを回転させたり捻ったりして、TFT カラーディスプレイに表示される情報を操作する。
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フロントカウル左右にはウインドディフレクターが設置されており、これを開くと走行風をライダーに当てることができる。開閉は手動式で、写真は開いた状態。
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フロントサスペンションは K1300 シリーズと基本設計を共有するデュオレバー。ちなみにエンジンの上をメインパイプが通るアルミツインスパーフレームも、レイアウトは K1300 シリーズと共通だ。
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リアサスペンションはオーソドックなボトムリンク式。余談だが、近年の BMW でリンク式を採用しているのは Kシリーズと S1000RR のみで、R/Fシリーズは直押し式である。
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片持ち式スイングアームやシャフトドライブのネガを軽減するパラレバーも、K1300 シリーズと基本を共有している。ブレーキキャリパーは、フロントがトキコ、リアがブレンボ製。
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試乗車が装着するマフラーは純正オプションのアクラポビッチ。排気口が片側3個ずつあるのはノーマルと同様だが、アクラポビッチが上下の穴から排気するのに対して、ノーマルは真ん中の1個のみ。

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