VIRGIN BMW | S1000RR(2012-) 試乗インプレ

S1000RRの画像
BMW Motorrad S1000RR

S1000RR(2012-)

  • 掲載日/2012年02月28日【試乗インプレ】
  • 取材協力/BMW Motorrad Japan  写真/淺倉 恵介  取材・文/高田 速人

世界中に衝撃を放った
BMW Motorrad 初のスーパースポーツモデル

2010年4月に日本国内で発売が始まった S1000RR は、スーパースポーツモデルを販売するメーカーに衝撃を与えた。当初はメーカー、ユーザー共に “BMW がスーパースポーツを作れるのか?” という疑問も同時にあったことであろう。だが、いざ販売を開始すると世界中で好評を博し、順調なセールスと、公平かつもっともシビアな “レース” という世界でも、好成績を残したのである。

もっとも車両の性能が成績を左右する ST1000 クラスでは、全10戦中9勝と圧倒的な強さと速さを見せつけ、年間チャンピオンを獲得。その他各国の選手権でも王者に輝いたのだが、 WSB 選手権だけは年間王座どころか、優勝すら出来ない状況だった。なぜ WSB では勝つ事が出来なかったのか? もちろんライダー、チーム共に超一流であることは間違いない。ここに今回2012年モデルとしてモデルチェンジを行った理由と問題が見えてくるのである。

2010年、2011年モデルの S1000RR もポテンシャルは非常に高く、誰が乗っても走りやすい車両であったため、たとえば長距離ツーリングで国内メーカーのスーパースポーツモデルと比較しても、そこに BMW 特有の “長距離ユーザー” を大事にするというコンセプトがハッキリと掴み取れたのだ。この完成度の高いスーパースポーツモデルを、如何にしてモデルチェンジを行ったのかは、他メーカーにとってもまた、衝撃となる事だろう。

S1000RRの特徴

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圧倒的な安心感を生む DTC と
RACE ABS を装着したプレミアムライン

S1000RR の国内モデルでは 156PS を発揮するパワーユニットだが、海外モデルでは 193PS という圧倒的なポテンシャルを秘めた S1000RR は、一般ユーザーではとても扱いきれるようなパワーではない。通常であれば “暴れ馬” になるところだが、この有り余るパワーを“調教”する DTC (ダイナミック・トラクション・コントロール)と RACE ABS (レース・アンチロック・ブレーキシステム)により、乗り手に対して圧倒的な安心感をもたらしている。2012年モデルとなって磨きがかけられた DTC と ABS により、非常に懐の広い、更にユーザー層を選ばないスーパースポーツとして生まれ変わった。

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正直、見た目があまり変わらないので DTC も ABS も2010年型と大して変わらないだろうと思っていたのだが、この2012年モデルでは確実に進化を遂げていたのである。特に DTC については介入してくるタイミングも変わり、非常に大きな安心感を乗り手に伝えてくれる。また、この DTC と共にエンジンコントロールの4モード(レイン、スポーツ、レース、スリック)にも若干の手直しが行われた。大きく変わったレインモードを含め、乗用域である 6,000 ~ 8,000rpm の出力特性が変更されたので、2010年モデルなどに見られたコーナー立ち上がり時の “トルクの谷間” をほとんど感じる事無く、S1000RR と乗り手を異次元な空間に連れて行ってくれるのだ。そんなパワーをコントロールしてくれる DTC に対して、確実に速度を落としてくれるブレーキユニットには変更点が無いとの事であったが、ブレーキのフィーリングは確実に向上していた。もともと前後共にブレンボ社製のキャリパーを装着しているので以前から不満は感じなかったのだが、ABS ユニットの問題か、ブレーキング時のフィーリングが若干自然では無かった。しかしこれがかなり自然なものに改善されていたのだ。

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コストを削る事にどのメーカーも凌ぎを削っている中で、ディテール面においてもわざわざコストを費やし、変更している面も多くあり、ユーザーに大きな所有感を与えてくれるモデルとなった。メーカーオプションではあるが、グリップヒーターも装着出来る、快適なスーパースポーツとなっているのだ。

S1000RRの試乗インプレッション

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攻め込んでこそ発揮する軽快なハンドリングと
今後のスーパースポーツ

2012年の S1000RR を受け取り、押し歩きしてみたところ、若干の重さを感じた。これは “ドシッ” とくる様な重さではなく、“なんとなく重い?” というレベル。実際に車両の説明を受けたところ、車重で 1kg 増との事だったので、あまり感じるほどでは無いと思うのだが、重量増の大部分がフレームだったので、より感じたのかもしれない。また、2010年モデルでは無調整式だったステアリングダンパーが、新型では10段の調整機能付に変更されたことも、取り回し時になんとなく重く感じた理由だろう。

今回の大きな変更点は主にフレーム部分だが、それ以外にも細かい変更点が多々ある。僕が2010年モデルで、2010年、2011年と全日本選手権、鈴鹿8時間耐久に参戦していた際に、中でもフレームのネガティブな部分が見えていたため、個人的にも非常に興味のある試乗だった。

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走り出して最初に感じたのは “軽い” ということ。この軽さと言ったらヒラヒラというよりもフラフラに近いぐらいで、「大丈夫だろうか?」と心配してしまうぐらいの軽さだ。旧型には圧倒的な安定感があったのだが、逆にこの安定感が攻め込んでいった際にネガとして出ていた。もともと2010年モデルの車両はフロントタイヤの存在感が希薄で、リアタイヤを使って曲げて行く様な乗り方が合っていたのだが、新型ではフロントタイヤの存在感がハッキリと伝わってくるので、いまどきのスーパースポーツモデルの様な、フロントタイヤを積極的に使うライディングが出来る車両になった。これはステムオフセットとホイールベース短縮の変更によるものが大きいのだが、これによって若干ではあるが、“乗り手を選ぶ” 車両になっているかもしれない。良い意味での “ダルさ” が無くなり、とてもシャープな車両に生まれ変わったのだ。

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かといって乗りにくいのかと言うとそうではない。レイン、スポーツ、レース、最終的にはスリックモードとすべてのモードを試してみたが、軽快感は変わらないのだ。例えば、ツーリング先のワインディングロードで目の前に現れたコーナーにアプローチをする際に、旧型は若干直進安定性が強く、フロントブレーキを使ってサスを沈めないとアプローチしにくい場面があったのだが、新型についてはそういう重さが全く無い。またスロットル自体が非常に重く、開度の大きかったスロットルパイプの巻取り径を変更(旧型の90度に対して新型は81度)、重さも 25% 軽減と、本当に細かいところにまで改良が及んでいる。こういった場面での気軽さと言うのは長距離を走ろうとすると結構な疲労感につながる部分なので非常に好感を持った。この他にも変更点は多く、見た目には解りにくいがサスペンションも非常に良くなっていた。特にリアサスペンションはピストン径が 14mm から 18mm に変更され、しっかりと減衰が効いた動きとなっていた。

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個人的な感想としては、レースでも使えるスポーツモデルの旧型に対して、“街中でも使えるレーサー” を作った様な印象だ。 BMW が今までの BMW テイストを少し削ったとしても、本気で作り上げた新型 S1000RR には間違いなく BMW “イズム” が生きている。そんな本気の S1000RR が、今年は更に活躍する事は間違いないだろう。 WSB の初優勝に、期待出来る。

こんな方にオススメ

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一台で、ロングツーリングも、峠もサーキットも
と言う欲張りさんに乗って欲しい

ロングツーリングもしたいしサーキットも走ってみたい、けど、用途に合わせて何台も所有することは到底無理…そんな一般的なユーザーさんにオススメしたい。

通常スーパースポーツモデルでのロングツーリングはお世辞にも快適とは言い難い。ましてやタンデムなんて、目的地に着いた途端にパッセンジャーからクレームに襲われ、楽しい気分のツーリングが台無しになる事だろう。だが、スーパースポーツモデルの中ではクッション性に優れている S1000RR のパッセンジャーシートなら、少しの間だけ我慢すれば良いレベルのクレームで済みそうだ。

そしてもしこの車両を購入されたら、是非ともサーキットで本当の S1000RR の性能を発揮させ、現在の最先端技術を体感して欲しい。

S1000RR の詳細写真

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左右非対称の特徴的なマスク。中心にあるセントラルラムエアーインテークがより一層精悍な顔つきにしている。
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スクリーンに “RR” のロゴが加えられた。製造コストがかかる部分だが、価格据え置きでこういった小変更を施すのがいかにもBMWらしく、好感が持てるところ。ユーザーに所有感を与えてくれる。
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新たにカウル別体装着部品となった “ウイングレット”。従来モデルよりも若干形状が大きくなったが、外観的な印象だけではなく、エアロダイナミクスに貢献している。
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パッと見た印象では変更点が無い様に見えるサイドカウルだが、“シャークグリル”の向きが変わっていることにお気付きだろうか。エラの張り方も変わって新型をアピールしている。
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S1000RRに乗る事を強く意識させるコックピット回り。ステッピングモーターを採用してスイッチを入れると同時に「ここまでオレは回るんだぜ」と言わんばかりにタコメーターが跳ね上がり、気分を盛り上げる。最近の車両では儀式のようなものか。
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ステムオフセット(従来型比マイナス2.5mm)と形状が変更されたトップブリッジ。剛性バランスが見直されたとのこと。ルックス的にも削りだし感があってカスタム車両の様な印象を受ける。
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従来モデルからの継続だが、スプリングイニシャル、コンプレッションダンパー、テンションダンパーが調整出来るフロントフォークは全体的な見直しが図られ、内部構造とアウターチューブ長が変更された。
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タンクカバーの前半部に現れた“クロコダイルアイ”。タンクカバー形状の変更により、フルロック時のスロットル操作がしやすくなった。Uターン時にもその恩恵は大きい。
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大きな変更が加えられなかったコックピット回り。必要がない部分は特に手を加えないという事だろう。
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じつは大きく形状が変わったシートカウル。俯瞰するとよくわかるが、シートカウル全体をかなり細くしている。その結果軽量化にも貢献。
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タンデムシート裏には少ない車載工具が綺麗に収納されている。シート下のスペースはお世辞にも広いとは言えないが、スーパースポーツとしては広いほうか。
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テールエンドを飾るのは前モデルから継続のLEDツインチップテールライト。
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ピストン径を14~18mmに変更を行い、しっかりした減衰特性のリアショックになった。特にリプレイスショックに変更する必要性を感じさせなくなった。
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軽量化と剛性確保の為に変更されたパッセンジャーステップ。ホルダー部分以外にステップピンまで変更された。
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今回の変更ポイントのメインであるフレームピボット部分。従来型と比較して上方へ4mm移動した。これによってリアショックの動きも変わった。また従来モデルはボルト2本留めだったが、1本留めに変更して軽量化に貢献。
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形状変更によって軽量化を図ったヒールガード。フレーム重量増をこういった細かい部分での軽量化により、トータル1kg増に抑えた。
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2010年モデルから純正装着のアクラポビッチ。日本仕様モデルのみ標準で装着される。
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じつは大きな変更となったエキゾースト。キャタライザーの装着部分を変更し、同時にエキゾーストノートチューニングも施された。
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フロント側同様、ブレーキにはブレンボ製キャリパーが装着される。ディスク中央に見えるリングはプレミアムラインにのみ装着されるDTCのセンサーリング。
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従来型では無調整式だったステアリングダンパーは、10段調整式に変更された。
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スリムになって形状も変わったシート。ステッチが入り高級感が増した。従来モデルでは加速時に体が後ろに滑っていくような場面があったが、形状変更により改善された。
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ボルト3本で外れるナンバーステーを取り外し、フルパワーカプラを差し込む事で156PSに躾けられたS1000RRが目を覚まし、193PSを搾り出すことができる。ただ、ナンバーステーと同時に保安部品も外れるので、公道での使用は不可。
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プレミアムラインに装着されるHPギアシフトアシストユニット。スロットルを開けたままクラッチ操作をせずにシフトアップが可能となっている。
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従来モデルと見た目が変わらないスイッチボックスだが、メーカーオプションとして設定されたグリップヒーターのスイッチが追加された。試乗時に使用してみたが、この時期の走行には非常にありがたい装備であった。後付けもできるが、最初から装着しておいたほうがお得。
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オプションのグリップヒーターを装着すると、メーター内で温度設定を確認できる。これは後付けであってもディーラーでメーター設定をすることで表示が可能に。
試乗ライダー プロフィール
高田 速人
バイクのタイヤとメンテナンスの専門店「8810R」代表。1976年生まれ、東京都出身。中学2年でミニバイクレースを始め、高校卒業後はロードレースにステップアップ。1996年に国際ライダーへと昇格、全日本選手権や鈴鹿8時間耐久レースなど、豊富なレース経験を持つ。2010年は 【Tras & G-TRIBE + 8810R】 チームによる、S1000RR鈴鹿8耐への挑戦にライダーとして参加。2011年は S1000RR を駆り 、【Team Tras】 の第1ライダーとして鈴鹿8耐に参戦。に参戦。15位獲得に貢献した。
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