VIRGIN BMW | 矢野 武男(HP2エンデューロ) インタビュー

矢野 武男(HP2エンデューロ)

  • 掲載日/2008年05月09日【インタビュー】
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HP2エンデューロでルートを開拓
コマ図ツーリングの楽しさを探求

以前、埼玉県越谷市のBMWディーラー、原サイクル主催のツーリングに参加させていただいたことがある。参加者全員に「コマ図」というルートマップを配り、各自がそれを見ながら走って目的地を目指すという独特のツーリングだ。そのためか、原サイクルのお客さんは、コマ図をロール状にして収納し、進み具合に合わせて地図を動かすことができる「マップケース」の装着率が高い。実は、「MAPY」という愛称まで持つこのマップケース、原サイクルのお客さんが手作りしたものだという。今回ご紹介するのは、その生みの親である矢野武男さんだ。MAPYを装着した愛車HP2エンデューロで新しいルートを開拓するのが楽しみという矢野さんに、コマ図を使ったツーリングの魅力について伺った。

心地よい排気音
気がつけば目的地

ーここはHP2エンデューロのライディングを楽しむのに絶好の場所ですね。

矢野●そうですね。自宅からも近く、春先から梅雨にかけては新緑と一面の菜の花がとても綺麗なので、この時期は週に2、3回来ています。また、ここは上流に向けて40km近くも河川敷を走れるので、オフロードのトレーニングにはもってこいです。

ーこれだけいい環境があると、たっぷりとHP2エンデューロのパフォーマンスを堪能できるのではと思いますが。

矢野●何台かGSを乗り継いできましたが、HP2エンデューロに乗るようになってからはここを走るのが楽しくて仕方ありません。テレレバーのGSもいいバイクなのですが、オフロードを突き詰めていくと、どうしてもテレスコピックフォークのフロントサスが欲しくなってしまい、HP2エンデューロに乗り換えました。今ではこのフロントサスの心地よいルーズさと、バランサーがないエンジンの振動が、とても心地よく感じられます。

ーテレレバーのどういう点がオフロード向きではないのでしょうか?

矢野●オンロードやちょっとしたラフロードなら、テレレバーはすばらしいサスペンションだと思います。グリップが確保されている路面では、フロントブレーキをかけたときに、最後の最後までがんばってくれる。だから安心して乗れます。でも、本格的な不整地になると、タイヤのグリップ限界を超えたとたんにスコンと転倒、ということになりがちです。僕はまだまだ未熟ですから、その限界がつかめない。それがテレスコピックだと、フロントタイヤの状態を把握しやすいのです。また、高剛性のテレレバーと違って、テレスコピックはフォークがしなります。その“しなる”ときのルーズな感覚が、僕のライディングに合っている気がするんですよ。

ー矢野さんはかなりオフロードを走りこんでいるようですね。HP2エンデューロというバイクのキャラクターから、レースなども視野に入れていらっしゃいますか?

矢野●いえいえ、そんな考えはありません。R1200GSからHP2エンデューロに乗り換えるときに、ディーラーからは「HP2エンデューロはGSとは違いますよ。レーサーですよ」と言われました。確かに作りはまったく違っていて、かなりレーサーに近いと思います。でも、僕はテレスコピックのBMWとしてHP2エンデューロが欲しかっただけ。バイクが乗り方を定義するのではなく、人がバイクの乗り方を定義すればいいと僕は思います。だからHP2エンデューロは、僕にとっては渓流釣りやキャンプに行くためのバイクなんですよ(笑)。

ーなるほど。ところで、矢野さんとBMWの出会いはいつの頃なのでしょうか。

矢野●自分のバイクとして乗り始めたのは10年ほど前に購入したR1100GSですが、僕とBMWとの出会いは小学生の頃です。あるBMWディーラーの近くに住んでいて、毎日のようにお店に行っては、そこに置いてあるBSAやBMWを眺めていました。そのうち、メカニックの人と仲良くなって、エンジンをかけてもらったことがあったのですが、そのときに聞いたR65の排気音が今でも忘れられません。

ーどんな音でしたか?

矢野●BSAはじけるような音だったのですが、BMWはまろやかで包み込むような音。1100、1150、1200と乗っていますが、BMWの水平対向エンジンが奏でる音は、それぞれ独特の心地よさがありますよね。だから長距離を走っても疲れないのかな。

ーBMWが長距離ツーリングで疲れないのは、その音にも秘密があるかもしれませんね。

矢野●BMWはとにかく疲れないと言われますが、確かに知らず知らずのうちに距離が伸びている。心地よい排気音に耳を傾けていて、気が付くと目的地という感覚です。いままでに乗ってきたBMWすべてがそんな感じで、HP2エンデューロはその心地よさの先に、どこにでも入っていけるというパフォーマンスを備えている。そういう意味では僕にとっての“どこでもドア”と言えるかもしれませんね。

マップケースとコマ図で広がる
想像力とひらめきのツーリング

ー矢野さんのHP2エンデューロには本格的なマップケースが付いていますね。

矢野●これはよくラリーなどで使われている巻上げ式のマップケースです。ここにロール状の地図を入れてツーリングに出かけます。僕のはカバーが開くようになっていて、地図に書き込むこともできます。市販のものもあるようですが、僕のマップケースは100円ショップで買ったフタ付きのCDケースに穴をあけて4本のシャフトを通しただけの簡単なもの。材料費は2000円くらいしかかかっていません。

ーとても手馴れた造りですね

矢野●これは4軸式ですが、上下方向に巻き取るだけのより簡単な2軸式のケースは、バイクの免許を取った高校生の頃から使っていました。もともと渓流釣りが好きで、友達に教えてもらった場所を紙に書いて、それを頼りに林道を走りながらポイントを探し回っていました。渓流釣りのポイントなんて地図上ではわからないですから。それに、こうした回転式だと、ロール状の地図そのものに気づいたことなどを次々と書き込んでいけるので便利です。その頃は、お弁当箱などに使う密閉容器に穴を開けて、割り箸を通して輪ゴムでとめただけの、さらに簡単な構造でした。

ー矢野さんが行きつけの原サイクルのお客さんはみんなこれを持っているとか。

矢野●一昨年のGSチャレンジに原サイクルのお客さんが多数参加するというので、20個くらい作ってほとんど材料代だけでお配りました。せっかくコマ図を使ったツーリングに参加するのだから、それをもっと楽しめるのにこのマップケースはぜひあったほうがいいと思ったので。それに、みんなに使ってもらうのなら、高いよりも安いほうがいいでしょ。もちろん、僕はこれを商売にしているわけじゃないから、時間があるときに作るだけですけどね(笑)。

ー私も以前、原サイクルの「コマ図ツーリング」に参加させていただきましたが、とてもワクワクするツーリングでした。

矢野●コマ図というのはラリーなどで使われている、基点からの距離と分岐点周辺の略図が書いてあるだけの地図です。指定されたコース上のポイントに到達したら、そのたびにコマ図と照らし合わせて進路を決定します。一般的な地図のように全体像が見えないため、コマ図だけを見ると、どこに向かうのかがわかりません。そこにクイズのようなゲーム性が生まれて、走るだけのツーリングがとっても楽しくなります。

ーコマ図ツーリングは、さながらミステリーツアーですね。

矢野●コマ図をもらっただけでは不安でしょ。だから、コマ図だけで走れる人は上級者だと思います。何が起こるかわからないという感覚を楽しむわけです。また、出発までに時間がある場合は、事前に地図と照らし合わせてルート全体を確かめることもあります。このような場合、ツーリングに出かけるときは事前に地図を確かめてルートを把握する、というもっとも基本的なことを再認識させてくれる効果もあるのです。

ーコマ図は地図と違って売っていませんが、矢野さんが作るのですか?

矢野●ラリーと同じように、GSチャレンジや原サイクルのツーリングでは主催者が事前に下調べをしてコマ図を作ります。僕も作ることがありますが、面白いルートを作ろうとしたら大変です。でも、苦労して作り上げたコマ図はツーリングルートのプレゼンテーションであり、ツーリング後は旅の記録として残るわけですから、やり甲斐があります。

ー1本のコマ図が重要なルート情報であり記録であるわけですね。

矢野●また、コマ図は断片的な情報でしかありませんから、走行中のライダーは想像力を働かせる必要があります。特に林道などでは分岐点に目印がありません。また、ダートを走るとリアタイヤが空転して距離計に誤差が生じます。だから、コマ図に慣れたライダーは「もしかしたらさっきの分岐がポイントだったかな?」などと想像力を働かせながらはしるのです。

ー想像力ですか。バイクの話題にはなかなか出てこない言葉ですね。

矢野●そうです。黙々とバイクを走らせるのも楽しいですが、コマ図を使ったツーリングで、いろいろな感覚を研ぎ澄ませながら走るのはとても楽しいですよ。コマ図ツーリングは「バイクを使ったオリエンテーリング」と言われるぐらいで、これに時間という要素が加わるとラリーという競技になるわけです。

ーBMWのオフロードモデルといえば、R100GSをはじめとして、ラリーのイメージがぴったり来ますね。

矢野●皆さんそれぞれ工夫してハンドル周りやメーター周りに取り付けているようですが、BMWにはマップケースがとてもよく似合います。このマップケースとコマ図を使った遊び方は、走りに余裕を与えてくれるBMWだからこそ、楽しめることなのかもしれません。そんな頼もしさに惹かれたからこそ、もう10年以上BMWばかり乗り継いでいるのでしょうね。今ではこのHP2エンデューロにゾッコンですよ。

プロフィール
矢野 武男
53歳。40歳になってからBMWのオーナーとなる。5ヶ月だけR1150RTに乗るも、それ以外はR1100GS、R1150GS、R1200GSとGSばかりを乗り継ぐ根っからのオフロード好き。現在はHP2エンデューロを駆り、自宅近くの河川敷でオフロードランの技術を磨く日々を送る。

Interviewer Column

インタビューは矢野さんが週に2、3回はやってくるという河川敷で行った。新緑がまぶしく、菜の花が一面に咲き乱れる河川敷は、眺めているだけでも気持ちがいい。こんなロケーションが近くにあれば、GSやHP2エンデューロのオーナーにとっては最高の環境と言えるだろう。それを裏付けるかのように、インタビュー中はずっと、「面白いですよー」「素晴らしいですよー」を繰り返していた矢野さん。取材が終わると「これから日が暮れるまで走り回ってきます」と言い残して、愛車とともに藪の向こうに消えていってしまったが、その後姿は本当に楽しそうだった。(八百山ゆーすけ)

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