VIRGIN BMW | 佐藤 義幸(R65G/S) インタビュー

佐藤 義幸(R65G/S)

  • 掲載日/2008年08月12日【インタビュー】
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R65ベースのオリジナルG/S
BMWを自分流で楽しむ

BMWの“GS”といえば今やビッグオフの象徴的存在だが、それとは対照的に軽快なイメージを醸し出しているのがこの「R65G/S」というカスタムバイクだ。まるで市販モデルとして実在したかのような完成度を誇るこのバイクは、オシャレなバイクウェアブランド「マックスフリッツ」を主宰する佐藤義幸さんの愛車。コンパクトなボクサーツインにスリムなタンクとシート。佐藤さんの理想とするBMWを具現化したこのバイクは、オフロードイベントから林道、そして毎日の通勤の足と、佐藤さんの生活とともにある。佐藤さんは20年もの間、何台ものBMWを乗り継いできているが、そのいずれもが安い中古車を買ってきて徹底的に自分流にカスタムしたものばかり。そんな佐藤さんに、BMWをカスタムする魅力についてうかがった。

ジャストサイズのベビーツイン
自分で想像したGSのプロトタイプ

ーまずは佐藤さんのR65G/Sについて教えてください。

佐藤●これは18万円で買ってきたR65をベースに、私の理想とするGSをリトモセレーノというお店に依頼してカスタムしてもらったバイクです。20年ほど前に初めてR100GSに乗って以来、R80G/S、R80GS、R1150GSとGSシリーズを乗り継いできましたが、1150あたりになると私にはとにかく大きすぎると感じました。R100GSに乗っていた頃から、600ccくらいの水平対向4バルブエンジンが出たら絶対に買うな、と思っていたくらいです。

ーなるほど、コンパクトなボクサーツインですね。そんなGSがあれば私も欲しいです。

佐藤●今の4バルブ水平対向エンジンをコンパクトにして、ショートストロークの高回転型に振った、“ベビー・フラットツイン”のようなモデルを作ってくれれば絶対に買いますね。確かにFシリーズやGシリーズもありますが、バーチカルエンジンではなくあくまでもボクサーがいい。そういう話をディーラーや出版社でも言っているのだけど、みんな「今のBMWはやらないだろう」、「排気量を拡大する方向にあるから、後戻り的なことはしないだろう」、「そっちならロータックスのエンジンがあるでしょ」という話で終わってしまうのです。

ーそれで佐藤さん自ら作ってしまったというわけですか。

佐藤●そう、ないものは作ろう、と思ってね。そこでヒントになったのが、パリダカールラリーのライダーとして有名なガストン・ライエが来日したときに彼自身から聞いた話です。彼の乗っていたマシンは、市販車のエンジンよりもシリンダーが3~4cm短くて、ショートストロークの高回転型のマシンだったそうです。「これだ!」 と思い、いろいろ調べてみました。すると、R45とR65のシリンダーはフィンが2枚、さらに付け根のフィンが1枚と、合計で3枚分くらい短いことに気がついたのです。片方のシリンダーで3cmも短いと相当コンパクトになる。これなら林道でも扱いやすくて、下が土ならアクセルターンもできるかも、なんて思ってR65を探し始めたのです。

ーそれにしても「R65にもG/Sがあったんだ」と思えるほどの完成度ですね。

佐藤●オリジナルの部分はほとんどエンジンとフレームだけです。フロントフォークはXR250用に固めのセッティングを施してあります。タンクは輸出用XTのアルミタンクで、トンネル部やステーをすべて作り直してあります。シートは手元にあったXL230用で、フェンダー類は数少ないBMWのR80G/Sのものだったかな(笑)。ライトカウルは部品交換会で、わずか1000円という格安価格で手に入れたもの。しばらく店に飾っておいたもので、フサベルの古いモノだと思います。ライトユニットは、フォグランプをつけなくてもいいぐらい横に光束が広がるシビエ。実は「R65 G/S」のステッカーも2年位前に作ってあったのです(笑)。

ーパーツはご自身で集められたのですか!

佐藤●もともとこのR65G/Sを作りたいと思い始めたのは10年くらい前でした。それで情報収集をしながら少しずつパーツを集めていきました。確かにポンとお金を出せば何でも買えるけれど、それはそれでつまらない。ネットオークションで、安いタンクをはじめとしていろいろなパーツを探すのに5年くらいを費やしたかな。マフラーの色は半光沢の黒が好きなので塗料まで持ち込んだりして。今から1年位前にベースのR65とパーツ類をショップに預けたのですが、それを今年のGSチャレンジに出るからと言って、急遽10日間くらいで組んでもらったのです。

ーライトカウルからタンク、シートへのラインはとても寄せ集めには見えないですね。

佐藤●シートとのラインが僕のイメージに合うまで、タンクだけでも3回作り直しましたから。その上トンネル部を作り直したついでに容量も増やしてあります。また、ペイントするときには、タンクにサランラップを巻いてマジックでラインを描いて、この通りにラインを入れてくれと頼みました。

ーこのR65G/Sには、何かモチーフになったバイクがあるのでしょうか?

佐藤●イメージしたのは“GSのプロトタイプ”。確かに昔、R45やR65のGSもあったそうですが、それはR80G/Sとほとんど同じなのです。そうではなくて、アップマフラーを装着してISDT(International Six Days Trial)に出ていた、もっと昔のマシンから派生したGSのプロトタイプを私の中で勝手に想像したものなのです。

ー製作を依頼するときにはイメージスケッチを持ち込んだそうですね。

佐藤●リトモセレーノがオフロードモデルを作るのは初めてのことで、しかもこの“プロトタイプ”のイメージは、私の頭の中にあるだけなので、他人には簡単に伝わらない。それなら絵を描くしかないわけです。その絵と寸分違わぬように作ってくれ、と頼みました。でも、ちゃんと彼らはイメージどおりに作ってくれましたよ。ただ1箇所だけ、リアブレーキリンクの取出しがどうしても上にできなかった以外は、本当にイメージどおりで満足しています。

子どもができて買ったサイドカー
いつもBMWは佐藤さんの足だった

ー佐藤さんは今、このR65G/S以外にもBMWを持っているそうですね。

佐藤●5年位前に買ったK100にR100RSのカウルをつけた「KR100RS」と、R80とR69のレーサーです。R80は主にMAX10という外車のレースに出ていて、R69は旧車のレース用です。この4台以外にもタンクをアルミのバフ仕上げにしているK100を甥っ子に預けてあります。

ー佐藤さんは根っからのBMWフリークなんですね。

佐藤●いえ、決してそうではありません。バイクに関しては雑食なんですよ(笑)。今でもドゥカティのMHRやモト・グッツィも持っています。また、ハーレーにも何台か乗りました。でも、20年位前に初めて乗ったR100GSの感覚が忘れられなくて、結局、BMWには乗り続けていますね。R100RSのサイドカーやソロなど、GS以外にも3台くらい乗り継ぎました。

ー初めて乗ったBMWの印象は覚えていらっしゃいますか?

佐藤●それまではずっとホンダのオフ車ばかり乗っていました。SL250からXR600、そしてXLV750まで。だからBMWなんてオヤジバイクだと思っていたのですが、それが全然イメージと違う。加速したときの感じが飛行機に乗っているようで、とてもスムーズな加速だったのを覚えています。国産車であればだいたいルックスどおりの性能を発揮してくれるのですが、BMWはいい意味で見た目を裏切る性能でした。

ー佐藤さんが選ぶBMWはどれも80年代のモデルばかりのようですが、何かこだわりが?

佐藤●結果的にそうなったのかな。今、1980年代半ばくらいのBMWはとても安く買えるんです。だいたい30万~40万くらいで安定している。今や250ccあたりのスクーターを買うにも70万~80万円する時代。どうせカスタムするならバイクを40万くらいで買ってきて、サスを変えたりいろいろ好みのパーツを付けたりしたほうが、手っ取り早い。そのうえBMWなら、ちゃんと乗ってさえいれば買ったときと同じくらいの値段で売れる。維持費は遊び代と思って考えれば断然お得なのです。

ー佐藤さんにとってバイクはカスタムして乗るものなんですね。

佐藤●もともと人と同じは好きじゃない。かといって、いかにも“カスタムしています”というのも嫌い。カスタムしたとわからないようにカスタムするというのがいいですね。以前、R100RSに乗っていたときも、エンジンの中には相当なお金をかけていました。発電機もコイルを巻き直して発電量を400Wまで上げていたし。マニアックでしょ。外観はWPのリヤサス以外はノーマルっぽく見えるけど、中身はバリバリのカスタムでした。

ーどれもしっかり手が入っていてお気に入りだとは思いますが、やはり今はR65G/Sが一番のお気に入りというところでしょうか。

佐藤●すべてお気に入りですが、R65G/Sは毎日乗っているという意味でそうかもしれません。KR100RSもありますが、あれはシングルシートになっていて子どもの送り迎えにも使えないので、いまはもっぱらR65G/Sが活躍しています。

ーバイクは佐藤さんにとって生活の足でもあるわけですね

佐藤●もともと私は子どもができる前まではクルマの免許を持っていなかったのです。だから、通勤もバイクだし仕事の打合せもバイク。何かにつけてバイクに乗っていました。通勤も世田谷から神田まで通っていたので、往復で40~50kmになる。だから年間3万キロくらい乗っていましたよ。また、打合せといっても岡山や岐阜の工場まで往復2000km近い距離をしょっちゅう走っていました。一泊二日で走ってきて、さらにその夜には酒を飲む余裕がある。それができるのはBMWしかありません。あと、子どもができたときにも、クルマを買う前にR100RSのサイドカーを買ってしまいました(笑)。そのサイドカーがそのまま乗り入れられる事務所を探して見つけたのが、今の中目黒の本店というわけです。

ーそういう普段使いの中で佐藤さんのバイクはBMWになっていったのですね。

佐藤●1台だけバイクを選べと言われたら間違いなくBMWを選びます。それはBMWがマルチパーパスだから。さらにそれを突き詰めていくとGS系になり、現行モデルだとR1200GSになるのでしょうが、今のGSはあまりにも大きすぎます。そうするとR80やR100になってしまう。ただ、それだけだとつまらないので、自分にジャストフィットするBMWとしてR65G/Sを考え出したのです。

ーなるほど。では改めて、佐藤さんにとってのBMWの魅力を教えていただけますか?

佐藤●まず、パーツ供給の良さですね。壊れても直るし、なにより事故を起こさなければ致命的な故障はしない。いままでBMWを何回か乗り換えてきていますが、どれもまだまだ乗れる状態で手放しています。R100GSを売ったときには8万kmも乗っていたけれど、まだまだ壊れる感じもしませんでした。これがXLV750だったら6万km、7万kmでもうおシャカというところではないでしょうか。

ー誰しもが認めるBMWならではの耐久性ですね。

佐藤●でも、ただ耐久性があるだけではダメ。私にとっては、そこそこ速くないとイヤ。そして、そこそこステータスも欲しい。それにカスタムベースとしての自由度も。一般的にBMWは自由度がないと思われているけれど、リトモセレーノのようなお店を見つければ、しっかり楽しみの幅が広がります。そういう人との出会いも含めての魅力もありますね。

プロフィール
佐藤 義幸
有限会社オーディブレイン代表取締役。機能性とファッション性を兼ね備えた大人のバイクウェア「マックスフリッツ」を主宰。ファッションデザイナーという仕事の傍らで、バイクをこよなく愛する。若い頃からホンダのオフロードモデルばかりを乗り継ぐ中、初めて乗ったR100GSに感銘を受け、以後メインのバイクは常にBMWとなる。46歳。

Interviewer Column

佐藤さんのR65G/Sは、BMWのカスタムで有名なリトモセレーノによる作。その完成度の高さから、いわゆる“ショップおまかせ”で生まれたカスタムバイクだと思っていた。それが佐藤さん自らコツコツとパーツを集め、イメージをスケッチに起こし、作業が始まってからも毎日のようにショップに通ったという話を聞くにつれ、このR65G/Sはひとつひとつのパーツに佐藤さんの思いが詰まったバイクなのだと思い知らされた。ファッションデザイナーである佐藤さんの仕事場の机の周りには、バイクのパーツやサーキットのコース図など、バイク関係のものがいっぱい。そんな佐藤さんが生み出すマックスフリッツのウェアも、本当にバイク好きのことを考えて作られていることがよくわかった。(八百山ゆーすけ)

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