VIRGIN BMW | マックスフリッツがBMWバイクオーナーから支持される理由 特集記事&最新情報

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取材協力/Max Fritz  文/縞田 行雄  写真/山内 潤也 構成/VIRGIN BMW.com 編集部
※この記事は、オフロード専門誌『GARRRR』Vol.346 P58-62の内容を再編集・掲載したものです。

掲載日/2015年4月28日


ファッションと機能を両立した
大人のバイクウエア

黄金律という通奏低音

数あるスポーツ用ウエアのなかでも、バイク用ウエアの立ち位置は微妙で複雑だと思う。バイクの場合、その大きな特徴として外気に身体をさらして走る。つまり暑さや寒さなどその時の気象の影響を強く受けるので、それに対応した機能が求められるし、万一のアクシデントを考えれば、部位によってある程度の衝撃吸収性も欲しい。それでいて他のスポーツ用ウエアとは異なり、バイクを降りれば一般的な生活の中に身を置くことになる。要するにモトクロスなど特殊な環境は別として、ツーリングや街乗りなど日常で使うバイク用ウエアには、前者の機能性と後者のファッション性の両面を兼ね備える必要があるわけだ。

これがじつに難しい。機能に特化するほど日常に溶け込みにくく、ファッションに特化するほど快適性は犠牲になる。いずれにせよこれまでのバイク用ウエアは、どちらかというと機能面のほうが重視されていたように思える。

そんな状況に一石を投じたのが、今回訪問した『マックスフリッツ』である。

その『マックスフリッツ』は、代表であり、デザイナーでもある佐藤義幸さんが2000年に立ち上げたブランドで、「バイク乗りの普段着」をテーマとして掲げる。具体的には“電車に乗れてカフェなどの飲食店にも気軽に入れ、なおかつバイクに快適に乗れる機能性を備えている”、ということになる。軍用や労働者向けウエアのトラディショナルなデザインをモチーフに、現代風のアレンジを加えることで、それを実現しているわけだ。

『マックスフリッツ』の代表であり企画からデザインまでひとりでこなす佐藤義幸さん。1962年生まれで福島県出身である。全盛期のDCブランドに身を置き、それと同時にバイク趣味を深く掘り下げてきた。そのふたつの要素が融合したのが、同ブランドの製品群である。

『マックスフリッツ』は、女性用ブランドの『Max Fritz Femme』をはじめ、グローブやブーツ、キャップなども展開。本店の入口には工具箱が置いてあり、ユーザーがウエスやエアゲージなどを使えるようになっている。ウエアショップとしては珍しく、佐藤さんのバイクに対する愛を感じられる。

 

筆者である私も『マックスフリッツ』のウエアを何着か愛用しているひとりで、特に着たときのスマートに見えるシルエットの美しさを気に入っている。それに同ブランドのウエアを着用していると、同行者から「それ、かっこいいですね」にはじまり、「どこのですか?」という問い合わせを今まで頻繁に耳にしてきた。バイク趣味や年齢、性別を問わずに。あるいは「ひょっとしてマックスフリッツですよね?」と聞かれることもある。

これが意味するのは、多くの人が共通して『マックスフリッツ』のウエアをファッショナブルでかっこいいと認識しており、同ブランドがひと目でそれと判る個性を持っている、ということだろう。

もちろんかっこよさの基準は、人ぞれぞれの趣向や感性によって大きく左右される。人によって好みのバイクや好みの食べ物、あるいは好みのタレントが違うように。けれども多くの人が納得するライン=黄金律みたいなものもあって、そんな黄金律が通奏低音として『マックスフリッツ』の製品の根底に流れているような気がするし、そうしたバイク用ウエアがこれまでなかったからこそ、同ブランドの製品が特徴的なのだと思う。

そうでなければ、全国に9店舗、ウェブショップを併せると10店舗の専門店を展開できるはずがない。ほとんど手作りに近い『マックスフリッツ』の製品作りと規模を考えるとじつに驚くべき数字だ。同ブランドがそれだけ支持される理由をはじめ、トラディショナルでありつつファッショナブルな製品群はいかにして生まれるのか。そのあたりの背景に迫ってみたい。

「バイク乗りの普段着」をテーマに、機能性とファッション性が同居する大人のバイクウエアを提案してきた『マックスフリッツ』。その本店およびオフィスは、感度の高い街としても知られる東京・上目黒にある。この場所を選ぶ際の条件として、バス通りに面していてバイクが置けることだったと佐藤さんは言う。そこへのこだわりも並大抵ではなく、ガードレールの一部を撤去したほどだ。そのため、広々としたバイク駐車スペースを確保している。
Max Fritz本店 東京都目黒区上目黒5-18-20 TEL.03-5773-1768 http://www.maxfritz.net/

 

ほとんどが手作業、
その手間を惜しまない姿勢に脱帽

店舗の奥に入るとそれとよりもさらに広いスペースのオフィスがあり、その一番奥にデザインをする部屋がある。仕事道具と遊び道具に囲まれたなかで、アイディアを実現するための第一歩がスタートする。

デザインを描く佐藤さん。場合によっては、生地からデザインをイメージすることもあるとのこと。

デザインが完了した後は、別室でパターン=型紙を作る。現在この作業の多くはコンピューターで行なわれることが多いそうだが、佐藤さんは手書きにこだわり、特殊な定規や電卓を使って仕上げていく。その手法はアパレルの基本をベースとしているが、機能面で随所にオリジナルの工夫が凝らされる。

その工夫がこちら。素人が見ても分からないが、一般的なアパレルの常識ではありえないラインが入っているそうだ。アクションプリッツを入れなくても自然に見えて動きやすくなるようなラインを入れているとのこと。

生地選びは基本的に洗うことができて、一般的なアパレルより頑丈なものをチョイス。理想的な生地がなければオリジナルを作るという。その例が写真の迷彩柄。右が既成品で、左が特注したオリジナル品だ。

『マックスフリッツ』のウエアは、ボタンやファスナーなど付属と呼ばれるパーツが多い。耐久性と堅牢さを目安に、そのひとつひとつを佐藤さんは吟味して選択していく。こうした作業は職出しと呼ばれ、そのパターンは一般アパレルの倍以上になる。こうしてデザインから職出しまで、気の遠くなるような手作業を経て、完成するまでに約8カ月を要する。もちろん、その間にサンプルを作り加工や調整が行なわれる。それらすべての行程を佐藤さんがひとりで行なっている!

補修に入ってきた製品も、佐藤さん自らがミシンを動かす。しかも全国への出荷も、佐藤さんがすべて行なうという。話を聞いてるだけで目が回りそうだ。

クライアントのひと言

六角形に近いユニークなカタチのサングラスをかけ黒いニット帽をまぶかにかぶり、首にストールを巻いて口と顎にヒゲを蓄えた佐藤さんの出で立ちは、どことなく無頼派の作家や、反骨精神あふれる芸術家のような雰囲気を醸し出している。

ところがそういった面持ちとは裏腹にある意味人柄は素朴な感じがするし、人当たりはやさしい。なんというか、若輩者の私が佐藤さんに対してこんなことをいうのも恐縮だが、いい具合に肩の力が抜けている感じだ。それが意外といえば意外だった。これまで数少なくないバイク用ウエアの代表やデザイナーなどに取材してきたけれど、佐藤さんはそのうちのどのタイプにも当てはまらない。わたしの経験からいうと、バイク関係のデザイナーといえば自分のこだわりとか見識を前面に表現してくるタイプの人が多く、それが原理主義的な様相を呈してきて威圧感みたいなものを覚えたし、そういう人が作るウエアは機能かファッションのいずれかに偏る傾向があるように思える。

一方、佐藤さんの場合、その口ぶりが穏やかということもあるのだろうけれど、“男は黙って勝負する”みたいな潔さとでもいおうか、聞かれたこと以外に多くを語らない。とはいえぶっきらぼうな感じは皆無。むしろ人好きのタイプに属する親しみやすさを感じるし、肝心の突っ込んだ質問に対しては、明確な考えを示してくれる。そういえば『マックスフリッツ』のホームページは、佐藤さんの人柄を表すように簡素ともいえる作りだ。

そんなほどよい距離感みたいなものがスペックには現れない部分で同ブランドの製品群に少なからず反映されているのだろう。それがユーザーに支持されるひとつの要因になっているように思える。もちろんすぐれたデザインと機能性があってこそだが、その点は佐藤さんのバックグランドが存分に生かされている。

佐藤さんは服飾系の学校を卒業した1982年、だれもが名前を聞いたことのあるデザイナーズブランドにデザイナーとして入社。そこでおもにパタンナー(型紙を作る設計者)として活躍し、その間アルバイトでほかのブランドのデザインをしたり、バイク乗りということもあって『ハロルズギア』などにもパタンナーとしても参加していたそうだ。

そこで服作りに関する確かな技術を磨き、ファッションに対する審美眼を養ったのだろう。その後とあるデザイナーズブランドのチーフデザイナー&パタンナーに抜擢されて、27歳の時に独立し、自らのデザイン会社を東京の白金に設立。その会社はデザインから製作まで一手に引き受ける珍しい存在として仕事は順調だったそうだ。しかし、クライアントのひと言がその後の佐藤さんの方向性を決定した。

「その会社では何人かのデザイナーを抱えてたんですが、クライアントから私に担当して欲しいという注文がけっこうあったんです。年齢がいってるとデザインがおもしろくないというのがその理由でした。ということは自分も年齢を重ねれば、いつかはその立場になるわけですよね。そこで趣味でバイクに乗っていたこともあるし、既存のバイク用ウエアに不満を持ってたので、マックスフリッツを立ち上げることにしたんです」(佐藤)

生粋の趣味人

『マックスフリッツ』というブランド名は、BMWのアイデンティティともいえる水平対向2気筒エンジンとシャフトドライブというシステムを作り上げた技術者の名に由来する。その技術者の『Max Friz』のiとzの間にtを入れているのが異なる点だが、技術者の視点に立ったモノ作りを目指すという意味が込められており、BMWを目指しているわけではないと、佐藤さんは言う。

それは佐藤さんがデザインはもとより、型紙を製作するパタンナー(=技術者)という職種に深く携わっていたことも関係しているし、マーケティング主導ではなく、作り手がいいと思うモノを作る、という姿勢の表れなのかもしれない。ブランド立ち上げ当初は、好きな服を作り、収入は家賃を払えるくらいでいい。そんなふうに趣味の延長で『マックスフリッツ』を始めたという。しかし佐藤さんのそんな思いとは裏腹に、瞬く間に全国のユーザーから支持されるようになった。

その成功には、これまで述べてきたようにデザイナーズブランド時代に服作りに関する基本やセンスを徹底的に磨き上げたことに加え、佐藤さんが生粋のバイク趣味人であることが大きく影響しているはずだ。

16歳で二輪免許を取って一時期は12台のバイクを所有していた佐藤さんは、デザイナーズブランド時代からホンダのXRV750やXR600Rといったビッグオフで林道キャンプツーリングを楽しんでいた。金曜にキャンプ道具を満載して会社に出勤し、仕事が終わったその夜出発。山奥にテントを張って、月曜の朝に岐阜や新潟から出勤するという根っからの好き者であり、現在も自社製品のテストを兼ねて早朝に出発し、300?ほど走ってから出勤するというバイクライフを送っている。

それとともに、アールズフォーク時代のBMWで旧車レースに参加したり、R 65をGS仕様にするなど大胆なカスタムも楽しんでいるし、モンゴルやカンボジアなど、年に一回の海外オフロードツーリングも主催。幅広くエネルギッシュにバイクを使った遊びを自らが実践し、提案している。そんなバイクライフが、『マックスフリッツ』のウエアの機能面を支えているのは間違いない。

今回『マックスフリッツ』を訪問して改めて感じたのは、佐藤さんの遊び心である。店舗となる店内をはじめその奥にあるオフィスには、いたるところにストックしてある燃料タンクやフェンダー、バイクのミニチュア、ラジコンカー、クラシックレーサーのイラストなどがさりげなく置かれている。男にとって、あるいは少年の気持ちを忘れない大人にとって、ワクワクするような空間だ。そのなかでふとアタマに思い浮かんだのが、所ジョージ氏である。

そういえば所ジョージ氏も自分の趣味や遊びを提案して、そのセンスやライフスタイルが支持されている。それと比べればグッとシックな感じとはいえ、似たような面が佐藤さんにもあるように感じた。

その境地にいたるには、時にはリスクを冒したり、少なくない身銭も切ってきたはず。そんなことを佐藤さんはひと言も発してないけれど、『マックスフリッツ』のウエアには、そういう覚悟というか心意気を持った人が作るからこその魅力があり、それがユーザーにも少なからず伝わっているように思えるのだ。

内的宇宙を感じるバイクと店舗

佐藤さんが生粋のバイク趣味人と感じる1台がこれ。BMW R65をベースにGS風にカスタマイズした車両だ。これまで歴代のGSに乗り継いできた佐藤さんは、R1150経験後、もう少し小回りの利くオールラウンダーが欲しくなった。そこで2バルブフラットツインのなかでもシリンダーの短いR65をチョイス。

イラストとパーツをカスタムショップの『リトモセレーノ』に持ち込み製作した。タンクは加工したXT500、フロントフォークはXR250、シートはXL230を流用するなど、その手法はまるでチョッパーのよう。こういう遊び心は所ジョージ氏に通じているような気がする。「このバイクならアクセルターンが楽々できるんです」(佐藤)。古いハスクバーナーのライトカウル手前には、ラリーマップを装備。GSチャレンジの時などに使用しているとのこと。

店内には、佐藤さんの趣味によるバイクやクルマのミニチュアをはじめ、BMWのシリンダーやはてはトライアンフの燃料タンクがオブジェ(?)として飾られている。

オフロードユーザーに向けた製品

パリダカに憧れ、林道を愛する佐藤さんだからこそ、オフロードユーザー向けのウエアも数多くリリースしている。 ここでは、その中から抜粋して紹介しよう(価格は税込み)。※価格は、2014年1月現在のものです。

キルティングフィールドジャケット 4万6200円
シンプルで美しいフォルムが特徴のジャケット。もちろん、利便性も追求しており、同ブランドのほとんどの製品に採用される両開きのファスナーほか、大小のポケットを使いやすい位置に配置。生地がアクセントになっている襟部分は、立てて閉めることで首まわりの風を遮断できる。

内側には、脊椎と肩、ヒジを保護するパッドを内蔵。袖の内側、胸、背中の脇にはベンチレーションとして機能するファスナーが設けられ、夏場の走行にも対応する。ライディングパーカー3S 4万6440円
佐藤さんイチオシが、このフルシーズン対応ジャケット。生地には頑丈なコーデュラを採用し、ヒジ部分にはウォッシャブルの革をあてがう。ラリーを主催しているSSERのオフィシャル用ジャケットでもあり、高速走行を考慮してパーカー部はボタン留めができるようになっている。

内側には、脊椎と肩、ヒジを保護するパッドを内蔵。袖の内側、胸、背中の脇にはベンチレーションとして機能するファスナーが設けられ、夏場の走行にも対応する。

インナーブルゾン 3万5920円
上のライディングパーカー3のインナーにぴったりのブルゾン。もちろん、他のジャケットにも組み合わせてもOKの冬場のライディングを快適にしてくれるアイテムである。生地は透湿防水性にすぐれるサイトスを採用し、ファスナー部や袖、腰のベルトまわりには革をあしらう。

ワンサイドカーゴパンツ 1万9000円
膝下にファスナーを採用し、膝部分にはパッドを入れることができるほか、通気口としても使える。デザインのアクセントになっている脚の内側には革素材は、ニーグリップ時の保持性も高めてくれる。

コーデュラエンデューロパンツ 3万450円
ブーツアウト式のオフロードパンツ。フォルムの美しさだけではなく、ストレッチ素材を採用することで動きやすさも両立。ヒザ部分の革も、デザインのアクセントと身体を保護するふたつの役目を担う。

ハーフレザーエンデューロパンツ 8万8200円
佐藤さんの理想を追求したブーツアウト式のパンツ。革の素材を部位によって変更、後部にはストレッチ素材を採用するなど、非常に凝った作り込みが特徴だ。