VIRGIN BMW | 第13回 BMW考察 2 365日BMW Motorrad.宣言

第13回 BMW考察 2

  • 掲載日/2007年07月25日【365日BMW Motorrad.宣言】
  • コラムニスト/K&H 上山 力

365日BMW Motorrad.宣言の画像

タイヤの接地感への疑問
BMWを学ぶきっかけでした

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ご無沙汰していました、K&H上山です。
イメージ今回でこのコラムは最終回になるのですが、私がR1200RTというオートバイを通じて考えたことや、BMWというメーカーに対して感じてきたことをお話ししたいと思います。R1200RTが納車されたばかりの頃は、ノーマルシート以外の不具合は特になく、テストと称して乗り回す日が続きました。ところが、次第にフントタイヤの接地感が乏しいことが気になりだします。R1200RTも近代的なオートバイの例に漏れない車体設計で、フロントタイヤへの依存はかなりの物になっています。実際はかなりの仕事をしているフロントタイヤなのですが、なぜか路面に食いついている気がしないのです。次第に、リアタイヤの接地感まで信用して良いものか分からなくなっていきます。走り終えた直後に前後のタイヤを見てみると、外周部はかなりムラのある削れ方をしています。それでも乗車位置を工夫したりと色々試してしていくうちに、フロントタイヤが路面に押し付けられている方向が発見できました。その方向の延長線上に自分の体が掛かると、フロントタイヤが「ギューッ」と、路面に押し付けられていることが実感できたのです。そうして、次第にフロントタイヤの削れ方は綺麗な円を描くようになっていきました。フロントタイヤの接地感が湧いてくるとアクセルも開けやすくなり、リアタイヤも綺麗に使うことができるようになります。

なぜこの向きからタイヤが押し付けられているのを感じたのか?
ここがこうなっているのでこうなって…ここの位置に乗車すれば…

走っては考え、走っては考え1つずつ紐解いていくと、今まで疑問に感じていたことと、断片的に仮説を立てて考えてきた事とが段々繋がっていきます。少しずつR1200RTの素性が分かってくると、更に走らせることが楽しくなっていきます。こうして「こんなシートが作りたい」と言う具体的な形やテーマが浮かんできたのです。

縦置きクランクは直進安定性がいい
それって本当のことだろうか?

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ボクサーエンジンは縦置きクランクだから、直進安定性に優れているという話を良く耳にします。そう聞く度に「直進安定性を優先するのであれば、縦置きクランクよりも横置きクランクを採用した方が良いはずだ」そう思っていました。クランクが高回転で回れば回るほど回転慣性が強く働き、クランクの軸を一定に保とうとする力もより強くなります。駒に例えると、ゆっくり回すよりも早く回した方が、重ければ重たい方が駒の軸は安定します。あれだけ重たいクランクがたくさん回っているので、クランク軸を一定に保とうとする強い力が働いているのは容易く想像ができます。ハーレーダビッドソンを代表する横置きで重たいクランクを採用しているオートバイは、一度クランクの慣性を絶たないと(アクセルを戻さないと)向きを変えにくいといった特性があり、アクセルを開け続けているとひたすら真っ直ぐ走ろうとします。横置きクランクでは、クランクの軸が進行方向に対して横(左右)方向に位置しており、車体を左右に傾けようとしても、クランクの軸が車体を垂直な状態で安定させるのです(もちろんその他の要素も存在します)。

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バイクが直立した状態で真っ直ぐ走る。これが、着地して走るオートバイという乗り物の直進安定なのだと思います。ボクサーエンジンの場合は、クランク軸が進行方向に対して縦(前後)方向にありますから、車体を左右に傾ける力はすんなり受け入れてくれます。高速走行中にアクセルを開けたまま向きを変えようとしたときには、左右で違いこそありますが、驚くほどシャープに車体が傾いていきます。逆にクランク軸に対して上下垂直方向に働く力、すなわちノーズダイブしたりリフトしたり、リアの車高が変化したときにはどうなるでしょう? 左右シンメトリーではなく一定方向に回転する縦置きクランクの軸には、車体を捩ろうとする力が発生してしまうのです。テレスコピックフォークを採用していた2バルブボクサーに乗ったことのある方ならお分かりだと思いますが、走行中に前後の車体姿勢が変化すると、クランクから発生した力は車体を捩ろうとしてしまいます。当時のフロントフォークトップブリッジは、明らかに剛性の低そうな鉄板の平板を採用していました。恐らくこれは、車体に掛かる応力をここで逃がしていたのでしょう。これらを解決するため、BMWはテレレバー・パラレバーというシステムを採用したのではないか? 直進安定性のことから始まった考えは、次第に車体の構成のことに辿り着いていきました。

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「ステアリング機構とサスペンション機構を分離しているので、お互いに悪影響を受けにくい」、「ブレーキング時にはほとんどノーズダイブしないので、安定して強い制動力を与えられる」これが一般的なテレレバーについての説明です。「トルクロッドがトルクリアクションを打ち消し、ドライブシャフト特有の癖を最小限に抑えます」、「仮想スイングアーム長は1.4m程にもなり、走行時の車体姿勢はいつも一定に保ち易くなっています。」と、これがパラレバーについてです。どちらも車体姿勢を一定に保つことに長けたシステムなのが分かります。更には、テレレバー採用でロールセンターを下げ、エンジン搭載位置を上げることにより、クランク軸とロールセンターを近づけています。ロールセンター付近にクランク軸があるため、クランクの慣性が発生する力は、左右のコーナーリング中の違和感を車体や乗り手へ伝えにくくします。この足回りを手に入れたことにより、荷重移動を強く意識しなくてもコーナーリングが可能になりました。良く言うと「快適に、楽に運転ができる」悪く言うと「ズボラな運転ができてしまう」と言えるでしょう。そして、2バルブボクサーにはなかった、高剛性のフロント足回りの採用も実現しました。HP2はちょっと特殊な(?)モデルなので除きますが、縦置きクランクのボクサーエンジンにはテレレバー、横置きエンジンのモデルにはノーズダイブするタイプのデュオレバーやテレスコピックの組み合わせというのも頷けます。BMW製ボクサーエンジン搭載車の直進安定性は、縦置きクランクからくるのではなく、キャスター・トレール等の車体設計からきているのでしょうね。とは言え、クランク軸を中心にしたモノレールにでも乗っているような感覚で走ると、また違った意味での直進安定性が存在するのも分かります。ちなみに、テレレバーとデュオレバーは、ブレーキング時にノーズダイブするかしないか以外にも違いがあります。テレレバーはキャスター角が寝る方向でデュオレバーは立つ方向、トレール量の変化も当然逆になるのですが、何故でしょう? 是非考えてみて下さい。

R1200RTのシート製作を通し
BMWを知り、気づくことができました

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BMWの設計は、紐解いていくと感心させられるところがたくさんあります。いつの時代も車体設計の効率を追求してきたメーカーのようにも思えますが、実はこのエンジンを長く続けてきたメーカーだからこそ、効率を追及してきたのかもしれませんね。そして、実用一辺倒というイメージもあるBMWですが、実はとても趣味性の強い乗り物を作る、稀に見るメーカーなのだとも思います。今となっては趣味性の強い縦置きクランクのこのボクサーエンジンを積むために、いつも最新最良の設計をしてきたのでしょう。BMW製オートバイを語る時、いつも真っ先に安全性や快適性ばかりが取り上げられますが、走らせる楽しさということを何時の時代、どのモデルに対しても真剣に取り組んできたように思います。守るべき物は守り、革新的な設計に挑んできた姿勢には素直に敬服します。こうしてこの伝統的なエンジンを作り続け、守り続けてきたのでしょう。しかし、BMW製の優れたオートバイは、優れた設計故に、少し人の先を行き過ぎてしまうことがある気がします。もしくは、人がオートバイに近づく努力を怠ってきているのでしょうか。

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快適性、安全性の確保や環境への配慮等、そして、オートバイを乗りこなすことや走らせることの喜びといった人の感性に訴えかける部分は、今後も重要なテーマになってくるでしょう。これからのBMWというメーカーは、これらのバランスをどう取っていくのでしょうか。それは、勿論我々パーツメーカーにも言えることです。そして、乗り手はもっとオートバイについて考え、走り、理解を深めていく必要があるのではないでしょうか? 私はR1200RTに乗り、たくさんのことを学び育てられました。皆さんも是非ご自身の愛車に乗りながら、色々なことを考えてみて下さい。そうすれば今よりも更に楽しくオートバイという乗り物と接することができるはずです。最後になりますが、私が作ったR1200RT用のシートは、装着さえすれば全てが完結するという物ではありません。ユーザーの方が、R1200RTというオートバイを「理解したい!使いこなしたい!楽しみたい!」そう思ったときに、より機能を発揮するはずです。ユーザーの方に、今よりも更に楽しんでほしいという気持ちを込めて作っています。「楽するために作ったのではなく、楽しむために作ったシート」なのです。 既にR1200RTは私の手元を去り、今度はR1200GS用の新しいシート製作に取り組んでいます。R1200RTから学んできたように、今後はR1200GSからもたくさんのことを学んでいくことでしょう。そして、これからもより良いシートの製作をしていきたいと思います。

最後もやはり抽象的な話になってしまいましたが、14回目の今回でこのコラムは一端終了したいと思います。長期に渡りご拝読有難う御座いました。

プロフィール
上山 力

32歳。東京都練馬区のシートの名店「K&H」に勤務。シートの開発を主に担当。自らが長い距離を走り抜き、シートを開発するため、彼の年間走行距離は尋常でないものに。

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