R1200GS ADVENTURE(2017-)
- 掲載日/2017年03月15日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 文/山下 剛 写真/長谷川 徹
パリ・ダカール優勝を起源とする
世界最強のアドベンチャーツアラー
オフロード走破性の高いボクサーに大容量タンクを装備したタフなバイクは、1984年に発売されたR80G/Sパリ・ダカール(R80G/S-PD)が起源だ。これはガストン・ライエがHPNによってチューンナップされたR80G/Sを走らせ、パリ・ダカールラリーで優勝した記念として限定発売されたモデルで、32Lの大容量タンクには彼のサインが記された。
その後、1988年にはR100GSパリ・ダカール(R100GS-PD)が、2002年にはR1150GSアドベンチャーが登場し、大容量タンクによる長距離航続性と大きなスクリーンやフェアリングによって快適性を高めたバリエーションモデルとしての「GSアドベンチャー」を確立させた。
R1200GSアドベンチャーという車名を持つモデルには、空油冷ボクサーを搭載する先代があり、現行となる空水冷ボクサーエンジンを搭載したR1200GSアドベンチャーは2014年に登場した。
威風堂々という言葉がこれほど似合うバイクは他にない、と思わせるに十分なスタイル。そしてタフな冒険を成功に導く優れた走破性能。まさしく最強である。アドベンチャーツアラーの雄として世界の頂点に立つバイク、それがR1200GSアドベンチャーだ。
R1200GS ADVENTUREの特徴
R1200GSのコンセプトをさらに進化させた
無給油航続性能と快適性
R1200GSをベースとして、航続距離を延ばしつつ、オフロード走破性を高めたのがこのモデルだ。それゆえ、エンジンをはじめとする主要諸元はR1200GSから大きな変更はない。
もっとも大きな相違点となるのが燃料タンクだ。スタンダードGSの20Lに対して、アドベンチャーは10L増となる30Lの大容量だ。カタログスペックを元にした計算では、696kmを無給油で走れるから、日帰りツーリングならガソリンスタンドに立ち寄る必要はない。しかしそうさせないのがBMWの長距離航続性能でもある。700km以上を走る日帰りツーリングなど日常茶飯事だから、結局は給油することになるだろう。
ミラーを含まない全幅はスタンダードの935mmに対して980mm。車重はスタンダードの245kgに対して15kg増となる260kgとなっており、それに対応させるとともにオフロードにおける走破性の向上も狙い、前後サスペンションのストローク量はそれぞれ20mm増加されている。また、最大積載荷重もスタンダードの450kgから480kgへと増えている。
こうしたスペックでもっとも気になるのはシート高だろう。これはスタンダードの850/870mmに対して、890/910mmとなっている。ちなみにシート下の調節機構を使うことで、シート高を2段階に調節可能だ。
ただしこれは「プレミアムライン」と呼ばれる仕様のシート高で、ローダウンサスペンションとローシートがセットされる「プレミアムスタンダード」では840/860mmとなる。
もう一点、車体関連で大きな違いはホイールベースで、スタンダードGSの1,550mmに対して1,510mmと40mmも短い。
ウィンドプロテクション(防風性)も大幅に向上している。燃料タンクの大型化によってとくにヒザ周辺の防風性と防寒性が高く、また大型スクリーンやフェアリングの採用によって高速巡航時の防風性は大きく向上している。
細かい点では、ライディングステップがオフロード走行を考慮した幅広タイプを採用する他、オフロードブーツ着用時にスタンディングとシッティングのどちらにも対応できるブレーキペダルを装備。転倒のダメージから燃料タンクからエンジンまでを保護するガードパイプ、サイレンサーガードも兼ねるパニアケースホルダーも標準装備される。
2017年モデルでは排出ガス規制値をユーロ4対応としたことに加えて、フロントフォークボトムサイドリフレクター(側面反射板)が設置された。
R1200GS ADVENTUREの試乗インプレッション
万人が操れる乗り物ではないが
新たな冒険の世界へと誘う魅惑のバイク
近年、とくにヨーロッパのバイクメーカーが開発コンセプトの重要項目としている性能に「乗りやすさ」や「扱いやすさ」がある。最高速度の向上が主眼だった時代が終わったことの表れだが、とくに趣味性の強いバイクの需要が高い欧州、北米、そして日本においてはバイク人口の高齢化が進んでいることから、低下した体力でも扱えるバイクが今後ますます求められる、という背景がある。
つまり、軽くてコンパクトな車体のバイクの需要が高まっており、世界中で人気となっている。ここ数年のバイクシーンの傾向だ。
もちろんBMWも例外ではなく、近年のモデルラインナップはビギナーを主眼とした扱いやすさに優れる、軽量でコンパクトな車格のモデルが増えている。Fシリーズ然り、Gシリーズ然りである。
しかし軽量かつコンパクトな車格では実現できない走行性能、そして走らせているときの楽しさと歓びがあることも事実だ。とくにBMWは車重を生かした走行安定性を長距離走行におけるメリットとしたバイクを作り続けてきたし、大きくて重たい車体のバイクはBMWらしさでもあった。
だが、BMWはバイクのおもしろさをより多くの人々に感じてもらいたいと願ってバイクを作ってきた集団でもある。一定以上の優れた身体能力を持った人だけが楽しめるのではなく、あらゆる人がバイクによって生きる喜びを感じられるよう、あらゆる安全機構を積極的に採用してきた。ABSプロ、ASC、ダイナミックESAといった数々の最新電子制御テクノロジーは、安全性を高めることはもちろんだが、同時に乗りやすさと扱いやすさの向上も意図したものだ。
そんなことを考えつつ、R1200GSアドベンチャーにまたがる。私の身長は175cmだが、このバイクを操るにはあと5cm、いや10cm欲しい。そう思わせるほどに車格は大きい。とくに30L容量の燃料タンクは、またがろうとしたそのときから否が応でも視界に入ってきて、こちらを威圧する。それに抗いつつ右足を向こう側へと持ち上げ、シートに腰を落とす。幅広いハンドルと巨大な燃料タンクは相変わらず威圧感たっぷりだが、ギアを1速へ落とし、クラッチをつないで走り出すとそれはフッと消える。2,000rpmあたりでもナーバスにならずに走り出せるほどのトルクと、やわらかくて低い音を立てるボクサーサウンドの心地よさと頼もしさが威圧感を打ち消すのだ。むしろ軽快さすら感じるほどで、それは市街地の交差点を曲がるときでも変わらない。車格からすると比較的短めな1,510mmのホイールベースが効いているのだろう。さすがにヒラヒラと曲がれるというレベルではないが、コーナリングで車体の重さを感じることはない。
短いホイールベースやボクサーエンジン本来の低重心に加えて、電子制御サスペンションとなるダイナミックESAによるところも大きいのだろう。ノーズダイブが抑制されるため(これはテレレバーサスペションの特性でもある)、ブレーキレバーをきつく握りながらの減速でもしっかりとサスペンションが車重を支えてくれるから不安がない。
試しにABSを効かせてみると、レバーへのノックバックは小さめながらしっかりと手応えがあり、作動していることがわかる。乾いた舗装路、ライディングモードを「ロード」にセットしたときの介入も違和感がなく、どちらかといえばABSが効くまでにけっこう踏ん張る、という印象を受ける。
ライディングモードを「ダイナミック」にすると、260kgの巨躯をこともなげに加速させる強烈なトルク特性となる。ワインディングや高速道路でのレーンチェンジなど、素早い加速が欲しいときに使うと、空水冷1,169ccボクサーエンジン本来のパワーを体感できる(とはいえこれでも抑えられてるはずだが)。
この安心感、気軽さはダートに踏み込んでも変わらない。もちろんスロットルやブレーキ、車体をリーンさせる動作に気を使うものの、ライディングモード「エンデューロ」にセットすれば、それすら要らない。また、「エンデューロ・プロ」ではリアブレーキのABSがカットオフされるし、ASCをオフにすることも可能だ。GSトロフィーに出場するような猛者も、これらを駆使すればかなりハードなシチュエーションでも走破できるだろう。
セミアクティブサスペンションである「ダイナミックESA」の素晴らしさは、乗車中にサスペンションの動きを意識してバイクを操縦するほとんど必要がない、という点に集約される。そのため乗り手はスロットル操作やシフトチェンジ、周囲の交通環境や路面状況の確認に集中できるのだ。また、アンチロックブレーキも「ABSプロ」となってからはリーンアングルも検出し、最適な効力を発揮するから、車体がいかなる状態でも安心してブレーキをかけられる。
2017年モデルから排出ガス規制値がユーロ4対応となった。それもあってか、これまでと比べるとエンジンのトルクが全体的にまろやかになった印象を受けた。いわゆる「角が取れた」という感覚を受けるもので、むしろBMWらしい上質さを感じさせるトルク感だ。
数々の電子制御テクノロジーで武装しているものの、やはりこの巨躯は万人が乗って楽しめるバイクではない。しかし、その扉を叩くことはできる。機会があればぜひ試乗して、このバイクがもたらす歓びを味わってほしい。扉を開けるかどうかはあなた次第だ。
R1200GS ADVENTUREの詳細写真
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