#05 菅生大会ウラ話(その2)
- 掲載日/2012年09月20日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
- 取材協力/G-TRIBE 文・写真/淺倉 恵介
前回は新リンクの投入と、それに合わせたセッティングに奮闘していたという秘話が明かされました。足周りのセッティングとは奥が深いものですね。全日本菅生Rd.での戸田さんの戦いはまだまだ続きます。
予選を経て、迎えた決勝
戸田さんの奮闘は続きます
なかなか決勝レースのハナシに到達しない、戸田さんの全日本 菅生Rd.ですが、実際のところレースというものは前段階に時間がかかるものなのです。決勝レースは日曜日に開催されますが、チームは通常木曜日にはサーキットに入っています。事前テストまで加えれば、日数だけでも一週間近くかかってしまいます。ファクトリーでマシンを整備している時間を入れればそれこそ膨大な時間が1レースのために費やされていることになります。さすが全日本、プロの世界です。さて、いよいよ予選のお話しです。
「予選はタイミングが合わなかったのが全てだなあ。フレッシュタイヤ投入のタイミングも間違っていなかったハズなんだけど……」
戸田さんの参戦している全日本 JSB1000 クラスの予選では「ノックアウト方式」が採用されています。これは予選時間をQ1、Q2、Q3の3段階に分け、各段階の上位ライダーだけが次の段階に進めるという方法です。上の段階に進むと順位が一旦リセットされますので、仮にQ1の段階でその日の最速タイムを記録したとしても、次の段階のQ2でタイムが悪くてQ3に進出できなかった場合、Q2での順位がスターティンググリッドになってしまいます。更にはタイヤの使用タイミング絡んできます。予選では、タイヤは2セットまでの使用が許可されています。Q1からQ3までの予選時間を合計すると約1時間、レース用スリックタイヤの寿命はとても短いですし、一番ポテンシャルを発揮出来る”美味しい”部分は、その中でもさらに一部ですし基本的に新品に近い方が性能は高い。そのため、2セットのタイヤを予選のどのタイミングで投入するかは作戦の重要ポイントです。
「菅生Rd.はエントリー台数が少なくてね、Q1の順位を気にしなくてもQ2に進めるのは判ってた。なので、Q1では練習で使った中古タイヤを使ったんだ。Q1は実質的にセッティングの確認と練習だったよね。で、フレッシュタイヤに交換してQ2に挑んだんだ。ここからが本気の予選だね。予選で良いタイムを出すコツのひとつに速いライダーに引っ張ってもらうという手がある。自分も良く使う作戦なんだけど、菅生では外しちゃったね。速いライダーを見つけたら即全開で追いかけるんだけど、ちょうどアタックを終える周回だったみたいで、コントロールラインを過ぎるとスピードを落とされちゃった。そんなことが2、3回続いてしまって、タイヤの美味しいところが終わってしまったの。だから、まともに一周アタックした周回はなかったね。」
予選中、ペースを落としているライダーや、後ろばかり見ているライダーを多く見かけるのですが、クリアラップをとるためでなく、速いライダーを探している場合もあるのですね。そんなわけで、不完全燃焼の予選は15位という結果に終わりました。予選から決勝までの間も、マシンにいろいろと手を加えていたようですが?
「アシのセットを進めていくのと並行して、燃調もいじってたんだよね。自分の S1000RR も8耐にTカーとして持ち込んでいたから、耐久レース用のセットになってたの。だからスプリントレース用のセットに戻さなきゃいけなかったんだよね。インジェクションのセッティングは触っちゃいけないと思っている人が多いんだけど、そんなことはないからね。補正機能があるからセッティングは自動的に調整されるというのも間違い。マシンに合わせてインジェクションをセッティングしてやれば、確実に速くなります。あと、パワーの出方を変えることもできるから、自分の好きなパワー特性を作ることもできる。ドンツキが気になってる人なんかは、是非インジェクションのセッティングをするべきだよね。圧倒的に走りやすくなります。Gトライブでも対応してますから、気になる S1000RR オーナーさんはお店まで連絡してください。」
で、戸田さんはどのように燃調セッティングをいじったのでしょう?
「菅生ってアップダウンがキツいからね。いまひとつ坂を上らない感じがしたんで、全体的に燃調を濃くしてトルクを出す方向で手を加えました。」
200馬力クラスの力持ちである S1000RR でもパワーが足りないとか……、JSB1000 とは恐ろしい世界です。
「だってさ、トップチームのマシンはストレートで”ぴゅ~”って離れていっちゃうんだよ。菅生の最終コーナーからは勾配率10%という、ものスゴイ上り坂なのよ。そこは完全にパワー勝負だから、差を感じたよね。自分の S1000RR のエンジンは掛け値なしのフルノーマルだからね。スペシャルパーツを使うどころか、エンジンを開けたことすらないの。それで、全日本を戦えちゃう S1000RR はスゴいってコトだし、今まではパワー差を感じてなかったんだけど、周りのマシンが速くなってきてるみたいだし、パワーアップも考えなきゃいけないと思ったね。」
課題は山積みですねえ。で、迎えた決勝レースです。
「実は、決勝前のフリー走行を走った後にも燃調いじってた。更に濃くしてしまいました」
往生際が悪い……いやいや、最後まで諦めない姿勢から熱い闘志を感じます。
「少しでも速くなるのを期待して……でも、ちょっと濃くし過ぎてしまったなあ」
過ぎたるは及ばざるがナントカを地でいっちゃいましたか?
「いっちゃったねえ。で、決勝レース。スタートで2台くらい抜いたかな? でも、すぐに1台に抜き返された。そのまま周回を重ねていったんだけど、後ろからのプッシュが激しくてね。タイヤのグリップも落ちてきたし、抑えきれないかなあ……と思ってたら、シフトミスでモタついたところで案の定1台に抜かれました。その後は、前を見ると遠くて追いつきそうにないし……、後ろを見ても離れているから抜かれる心配も無さそうだし……で、ペースを落として淡々と周回をこなした感じだね。最後まで全開で走るって考えもあるけど、レースはこの後も続くしね。無駄に無理な走りをして転んでも意味が無いでしょ?」
さすがベテラン。考え方が老獪です。
「老獪とか言うな」
でも、全日本 JSB1000 のレギュラー参戦ライダーでは最年長ですからね。身体に気をつけて、いつまでもがんばってください。
「うるせえよ! ジジイ扱いすんなっ!」
(笑)。でも実際のところ、戸田さんの体力は年齢を感じさせませんよね。
「総合的な体力や持久力はともかく、バイクに乗るために必要な筋肉は、バイクに乗ることでしか鍛えられないと思うんだよね。長くバイクを楽しみたいのなら、やっぱり日頃から多くバイクに乗ることが大切だと思うよ。バージンBMW 読者の皆さんも、どんどんバイクに乗ってくださいね。」
有り難いお言葉が出たところで、菅生大会の総括をひとつ。
「リンクの件にしろ、燃調の件にしろ、レース前にテストしておくべきことを済ませられなかったのは反省点だよね。けれど前にも言った通り、自分が S1000RR でレースをやっているのは、 S1000RR というバイクを深く知るためという意味合いが強い。ここで得たノウハウをユーザーに還元するのが、最終目的だからね。そういう意味では、リザルト的には納得はいっていないけど、有益なレースだったと思うよ。良いデータがたくさんとれたからね。でも、今回改めて感じたんだけど、このままじゃ上位のライダーには勝てないね。マシンも自分もレベルアップしないといけない。」
では、そのために必要なものは何なのでしょうか?
「ん~、お金? 我こそはと思う方は、是非スポンサーに!」
現実は厳しい……。
次回は、MFJ全日本ロードレース選手権 第7戦 オートポリス大会の裏話をお伝えする予定です。お楽しみに。
- 【前の記事へ】
#04 菅生大会ウラ話(その1) - 【次の記事へ】
#06 オートポリス大会ウラ話
関連する記事
-
試乗インプレッション
C600スポーツ(2012-)/C650GT(2012-)
-
試乗インプレッション
C600スポーツ(2012-)
-
S1000RR全日本選手権参戦記
#01 ライダー戸田 隆の登場!