VIRGIN BMW | #12 耐久レースの厳しさ、チームワークの意味とは? S1000RRの楽しみ方

#12 耐久レースの厳しさ、チームワークの意味とは?

  • 掲載日/2011年08月30日【S1000RRの楽しみ方】
  • 文・写真/淺倉 恵介
S1000RRの画像

決勝前日の土曜日、予選上位10チームは最終予選ともいえるトップ10トライアルを走るが、トップ10トライアルに出走しないチームにとっても休息日にはならない。どのチームも、決勝に向け準備に忙殺される。もちろん 【Team Tras】 にとっても、それは同じ。レースウイーク前までの遅れを取り戻すため、チームのメンバーは誰もが忙しく立ち働いていた。

レース前日も大忙し
大活躍のマイスター達

29日に予選が終わった後、チームのメンバーが集合して全体ミーティングが開かれ、決勝の作戦やチーム員各自の仕事分担の確認などが行われました。そこでの話し合いで、決勝は寺本選手と僕の2人で走り亮輔は万が一のバックアップに回ることになりました。最初は慣れない S1000RR に苦しんでいた亮輔でしたが、マシンに慣れてくるにつれタイムを上げてきておりローテーションに組み込めなくはなかったのですが、ライダーの経験値を重視しての判断でした。彼にとっては残念なことになってしまいましたが、8耐は耐久レースというチームスポーツであり、【Team Tras】 が上位入賞を目標に結成されたチームである以上、仕方のないことだともいえました。だからというわけではないのですが、いつか亮輔とペアを組んで8耐を走ってみたいと思っています。それまでに、もっと経験を積んで、速く頼れるライダーに成長していて欲しいものです。

翌30日。予選上位10チームは、最終的なグリッドを争うトップ10トライアルがありました。トップ10トライアルと言えば、同じ S1000RR で参戦したチーム 【BMW MOTORRAD FRANCE 99】 について触れなければなりません。ご存知かと思いますが、彼らは世界耐久選手権に参戦中の、フランスの耐久レース専門チームです。フランスチームの参戦を知った時は「ここは負けられない、地元の意地をみせつけてやろう」と意気込んでいました。鈴鹿では彼らと 【Team Tras】 のピットは隣同士。敵対視しているわけではないですが、意識しないわけにはいきません。ところが、予選が始まり彼らの走りを見て、すっかり驚かされてしまいました。一言で言ってフランスチームは “ホンモノ” でした。速さももちろんですが、チームが実に機能的に動いています。とにかくクルーの行動にムダが無い。ピット作業などは見習うべきことばかりでした。フランスチームは素晴らしい走りを見せて、予選順位7位を獲得、トップ10トライアルに進出しました。マシンの仕様は大差ないと聞いています。S1000RR は、それだけ速く走れるポテンシャルを秘めていることを彼らが証明してくれました。ならば、僕らにも出来るはず。いつまでも遅れを取っているわけにはいきません。いつかは肩を並べて競り合いたい、いや彼ら以上の速さを手にしたいものです。

さて、僕達 【Team Tras】 はフリー走行以外この日は走ることはありません。ですが、マシンの最終的な仕上げなど、やることはたくさんたくさんあるので、朝からサーキットに入ります。フリー走行では、セッティングの確認も重要ですが、決勝用に新しく組んだパーツの動作確認やナラシも必要です。ブレーキパッドやチェーンは当然新品を組みますから、マシンに馴染ませなければなりません。また、新品プラグが不良品ではないか? などなど、マシンの全てをチェックします。そして絶対にやっておかねばならないのが、ライダー交代時のピット作業の練習です。

耐久レースでは、ピット作業は勝負の重要なポイントです。例えばの話ですが、ピット作業で競り合っているチームから10秒遅れたとします。競り合っている相手ですから、当然タイム差はほとんどありません。仮に僕らが1周のラップタイムで0.5秒速く回れるとしても、その10秒を取り戻すのには20周かかってしまいます。1周2分15秒でラップするとして、20周すれば45分。ライダーが1回走行することを1スティントといいますが、1スティントは50分ほど。10秒の差を詰めるのに、ほとんど1スティントを費やしてしまうのです。そこでピットインして、また10秒引き離されるとしたら、これはもう永久に追いつけません。

【Team Tras】 は8耐のためだけに集まる急造チームです。中には、決勝当日にしか合流できないメンバーもいます。メカニックは BMW ディーラーのマイスター達ですから、BMW については熟知している方ばかりですし、8耐自体は何回も経験しているメンバーも多いのですが “レース慣れ” という意味では、やはり普段から全日本を転戦しているようなチームには及びません。僕自身はレース界の人間ですから、昨年チームに参加した時に一番強く感じたのが、レースへの取り組みについての温度差でした。“ピット作業の1秒” の大切さを解ってもらいたくて、随分失礼なことも言ったと思います。ですが、今年のマイスター達は違いました。

メカニックの皆さんは、きっちりと “耐久レースのメカ” として、明確な目的意識を持って鈴鹿に乗り込んできていました。チームとして1秒を詰めるために、自分が何をしなければならないか。どのようにレースに取り組まなければならないかを、それぞれ考えておられるようでした。ほとんどの方が、昨年も参加されていたメカニックさんでしたから、僕の気持ちはちゃんと伝わっていたのだととてもうれしく、またありがたく、なにより頼もしく感じました。上から目線で申し訳ないのですが、今年のメカニック陣は確実なレベルアップを見せていました。もっとも、そもそもがベテラン揃いの BMW のプロ集団なのですから、考え方が “レースモード” に切り替わりさえすれば、即座にレースメカとして活躍できるレベルにあったのでしょう。なんにせよ、チームに参加していただいたマイスターの皆さんには、本当に感謝しています。良い仕事ぶりを見せていただいて、ライダーとしても走り甲斐がありました。

さて、次回はいよいよ決勝レースです。【Team Tras】 の戦いぶりを、僕なりの目線でお伝えしようと思います。

S1000RRの画像
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ミーティングは真剣そのもの。チームが上を目指すために、どのような方策をとるのが最適なのかが議論された。決勝ではサポートにまわることになった片平選手だが、テスト時とは異なり伸び伸びと S1000RR を操っていた。若いだけに、今後期待大のライダーだ。
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決勝前日のフリー走行は、決勝レースのリハーサル的な側面もあるため、ライダーはもちろんクルーも本番同様の体制で挑む。走行時間は45分と長くはないので、限られた時間の中でテスト項目や確認事項を確実に処理する必要がある。そのため、緊張感は実戦さながらだ。少ない周回数でピットインとライダー交代を繰り返し、チーム全体でピット作業の呼吸を合わせていくのだ。
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【Team Tras】 のライダー3人が、イベントスペースに設けられたダンロップのブースでトークショーを開催。やはり注目度は高く、多くのレースファンがステージに注目していた。
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連日連夜マシンの整備に追われるマイスター達。炎天下での作業が朝早くから深夜まで続いていたが、誰も弱音ひとつ吐かない。メカニックはレースを走ることはなく、ライダーのように注目を浴びることもない。だが、メカニックの存在なくして8時間という長丁場のレースを戦うことはできない。8耐の陰の主役、それがメカニックだ。
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データロガーのセンサーはサスペンションにも装着され、各コーナーでのサスペンションの動きを視覚的に確認できる。ここで解析されたデータはサスセッティングに活かされる。
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Tras の新田さんが書き込んでいるのはラップチャート。走行データを蓄積し、決勝をどう戦うかのプランを立案する。
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昨年の BMW チームでライダーを務めていた齋藤栄治選手が、今年はスタッフとして参加。マネージャー的なポジションに立ち、忙しく立ち働いていた。ライダーの心情が理解できるスタッフとして、重要な役割を果たしていたようだ。
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【BMW MOTORRAD FRANCE 99】 のクルーが 【Team Tras】 のピットに潜入? 日本独自のチューニングが施された S1000RR に、興味津々の様子。
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走行に備え、精神統一に入る寺本選手。関西人らしい明るいキャラクターの寺本選手だが、走行前は “サムライ” の表情をみせる。
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寺本選手は一時12位まで予選順位を上げた。トップ10トライアル進出も期待されたが、他チームのタイムアップでかなわなかった。
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コースへと向かう片平選手。S1000RR での走りを掴みつつあるようだ。
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1コーナーでコース外に飛び出してしまった寺本選手。もっとも、余裕をもってのコースアウトだったようで、何事も無くコースに復帰し予選を快走した。
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素晴らしい速さをみせた 【BMW MOTORRAD FRANCE 99】。【Team Tras】 の S1000RR もエンジンがノーマルということで話題になっているが、フランスチームもほぼ同仕様とのこと。S1000RR のポテンシャル恐るべしだ。
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ピットウォークでファンサービスする 【Team Tras】 のライダー陣。【Team Tras】 は、何故かチビッ子ファンに大人気。中でも片平選手は、特に人気を集めていた模様。
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ピットウォークでファンサービスする 【Team Tras】 のライダー陣。【Team Tras】 は、何故かチビッ子ファンに大人気。中でも片平選手は、特に人気を集めていた模様。
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ピットウォークでファンサービスする 【Team Tras】 のライダー陣。【Team Tras】 は、何故かチビッ子ファンに大人気。中でも片平選手は、特に人気を集めていた模様。
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チーム監督を務めたのは、BMW ファンにはお馴染みの BMW ジャパンの武藤さん。全くの手弁当で8耐に駆けつける、根っからのレース好き。
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WP のリアショックを分解し、仕様変更を行っている野村さん。ピット内にショック組み立てブースを作り、万全のサービス体制を整えていた。
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フロントスタンドの形状に合わせ、自らカウルを加工する新田さん。さすがカーボンのプロ、リューターさばきは見事な腕前。
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ライダーでありながらメカにも造詣の深い高田さん。メカニックの作業に遅い時間まで立ち会い、ベテランレーサーとしての視点から、様々なサジェスチョンを行っていた。隣にいるのは、サポートに駆けつけた高田さんの実兄・慎吾さん。高田さんのレース活動には欠かせない存在だ。
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フランスチームのピット作業のリハーサル。サッと準備して、わずかな時間で引き上げてしまった。さすが耐久レース専門チームだけあり、ルーチンワークの確認といった風情だった。
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日仏 BMW チームが揃っての記念撮影。なぜかライダーは両チームとも不在。
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決勝前夜には 【BITO R&D】 の美藤さんもチームに合流。
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マイスターを取りまとめるのは、BMW 界の重鎮 FLAT(東京都大田区)の柳澤さん。要所要所で的確なアドバイスをし、メカニックの精神的支柱としても信頼を集めていた。
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30日夜は8耐前夜祭が開催され、様々な催しが行われた。人気アイドルユニット SKE48 も登場。メインストレート上で華やかなパフォーマンスが演じられている時、その裏側のピットレーンでは黙々と決勝に向けた各チームの準備が進められていた。
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前夜祭のイベントプログラムとして行われたナイトピットウォークでは、リポーターが各チームを訪問。寺本選手がインタビューに応じていた。
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【Team Tras】 のピットでも、前夜祭の喧噪をよそにピット作業のリハーサルが延々と行われていた。
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7月の鈴鹿では、陽が暮れても熱さは衰えを見せない。びっしょりと汗に濡れたツナギが、作業の過酷さを物語る。
国際ライダー MFJ公認インストラクター
高田 速人
バイクのタイヤとメンテナンスの専門店「8810R」代表。1976年生まれ、東京都出身。中学2年でミニバイクレースを始め、高校卒業後はロードレースにステップアップ。1996年に国際ライダーへと昇格、全日本選手権や鈴鹿8時間耐久レースなど、豊富なレース経験を持つ。2010年は 【Tras & G-TRIBE + 8810R】 チームによる、S1000RR鈴鹿8耐への挑戦にライダーとして参加。2011年は S1000RR を駆り 、【Team Tras】 の第1ライダーとして鈴鹿8耐に参戦。15位獲得に貢献した。
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