VIRGIN BMW | #11 迎えた公式予選、目指せ上位グリッド! S1000RRの楽しみ方

#11 迎えた公式予選、目指せ上位グリッド!

  • 掲載日/2011年08月26日【S1000RRの楽しみ方】
  • 文・写真/淺倉 恵介
S1000RRの画像

予選を迎えた 【Team Tras】。一発の速さを競うだけと考えがちな予選だが、チームスポーツである耐久レースの場合は、それほど簡単ではない。そこにも作戦と駆け引きが存在する。満を持してタイムアタックに挑む高田さんだが、ここで思いもよらぬアクシデントにぶつかってしまいます。

予選はタイヤマネジメントが重要
チームで戦う、耐久レースの難しさ

7月29日の予選当日、チームは早朝から動き出しています。朝のフリー走行は午前9時から10時の1時間。その間、マシンのチェックを済ませ、なにより使用するタイヤを決めなければなりません。予定していたメニューを慌ただしくこなし、なんとかフィーリングの良いタイヤも見つけることができたのですが、まだ考えなければならないことがあります。

8耐の予選にはタイヤの本数制限があります。予選で使用できるタイヤは、登録ライダー1人につきタイヤ1セット。ライダーが2人登録であれば、1チームあたり2セット。【Team Tras】 はライダー3人登録ですから、予選で3セットのタイヤが使えることになります。その3セットをどのように使うかはチームの自由ですので、タイヤマネジメントが重要な作戦のポイントになるのです。

予選は各ライダーが30分間の走行を2本ずつ計1時間走り、その時間内で記録したチームで最も速かったラップタイムが予選結果に反映されます。予選で使用するタイヤは決勝用タイヤと異なり寿命が長くありません。仮に各ライダーに1セットずつタイヤを割り当てると、新品タイヤで走れるのは1本目のみということになります。言ってしまえば、1人のライダーが1ラップだけでも良いタイムを出せばいいわけですから、好タイムを出せる可能性が高いライダーに、1本目2本目両方の予選で新品タイヤを履かせた方が、より良い予選結果が期待できるわけです。

ここまで、チームのベストラップは寺本選手が記録していましたので、チームで話し合い予選順位は寺本選手の走りに託すことになりました。寺本選手は予選の2本とも新品タイヤで走ってもらい、僕は1本目の予選だけ新品タイヤで走り、2本目は一度走ったタイヤを使います。第3ライダーの亮輔は、2本とも寺本選手と僕が使ったタイヤで走ることになります。

僕にもライダーとしてのエゴがありますから、正直にいえば2本とも新品タイヤで走りたかったというのが本音です。時間いっぱい攻めて、自分の手でベストラップを叩き出したかった。ですが、そういう我を通していては耐久レースを戦うことはできません。予選までに寺本選手は結果を出しているわけですから、その実績を認め可能性の高いライダーをチーム全体でバックアップするのが耐久レースの戦い方なのです。

S1000RRの画像
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プラットフォームにテントやモニターが設置され、レースの準備は着々と整えられていく。マシンのセットアップも急ピッチで進められ、マイスター達は休むヒマもない。高田さんの右側の人物は、データロガーの解析や走行データの管理を担当した Keng Yang の田中さん。左の人物は WP サスペンションのセットアップを担当する MCインターナショナル の野村さん。

襲いくるトラブルとアクシデント
8耐の魔物に翻弄される 【Team Tras】

1本目の予選は第1ライダーである僕からスタートします。新品タイヤでタイムアタックできるのは、この1本目だけですから全てをこの1本に注ぎ込まなければなりません。なのに、ここでトラブルが起きてしまいました。予選開始時間になっても、タイヤがマシンに装着されていないのです。走りたくても走れません。

レースの時は、タイヤメーカーがサービス部隊を派遣してくれていて、タイヤ交換はそのブースで行います。【Team Tras】 の場合は使用している ダンロップ のサービスにお願いします。8耐のようなビッグレースでは、何十というチームのタイヤ交換をこなさねばならないためタイヤサービスは大忙しです。僕らが使用するタイヤを決定したのが朝のフリー走行。すぐにタイヤ交換を依頼したのですが、他のチームからも依頼が殺到しておりサービスもパンク状態でした。予定通り、前日にタイヤ選択が済んでいれば、こんなことは起きなかったのですが、天候に文句を言っても仕方ありません。元はといえばレースウィークに入る前に、タイヤを決められなかったことが原因ですから、これも準備不足が生んだトラブルともいえるのです。

自分のモチベーションは MAX まで高まっているのに、走り出すことができない状況。「こういう時イラついたりしないのですか?」と質問されました。もちろん心穏やかとはいえませんが、状況が悪いからと周りに当たり散らしたり、マイナス思考になっても良い結果は出ないと思います。この時は「こんなチームの空気が悪くなっている時こそ、良いタイムを出してチームと自分の気分を盛り上げよう」と、こんな風に考えていました。こう言うと、僕がスーパーポジティブな人間に見えるかもしれませんが、そういうわけではありません。僕はレース中は上を狙うことだけを考えています。チームの雰囲気が悪くなれば、良いレース結果など望むべくもありませんから、チームを良い状態にするために最善の方法を考えているだけです。こう考えるライダーは多いのではないでしょうか?

予選が始まってから10分近く経った頃、ようやくタイヤがピットまで届きました。メカニックの皆さんがレース中のタイヤ交換のような速さで作業してくれたので、即座にコースに飛び出します。とはいえ数周の間、ムリはできません。レーシングタイヤは、タイヤウォーマーで予熱しての使用を前提に設計されています。通常は1時間ほどタイヤウォーマーにかけ、ゆっくりと暖めるのですが、もちろんそんな時間はなかったので、走りながら暖めていくしかありません。

3、4周ペースを抑えて走り、ようやくグリップ感が出てきました。ですが、ここでまたトラブル。大きな転倒があったようで、予選が赤旗中断になってしまったのです。一旦ピットに戻るしかありません。ピットに留まっている間、タイヤが冷えないようにタイヤウォーマーを巻き、予選再開を待ちます。10分ほどでコースオープンしたので、今度こそと気合いを入れて走り出したのですが、思うようなタイムは出すことができませんでした。自己ベストからもほど遠いタイムで、不本意ではありますが、これは仕方ありません。条件は確かに悪かったと言えるでしょう。ですがそれは一緒に走っていたライダーも皆同じ。その中でしっかり速いタイムを記録しているライダーはいたのです。数字は正直です、タイムはその時点の僕の実力と納得するしかないのです。

その後、寺本選手のがんばりで 【Team Tras】 は18番手の決勝グリッドを手に入れることができました。奇しくも昨年の決勝順位が18位ですから、今年は去年のゴール地点からスタートということでしょうか。あとは、上がっていくだけです。

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ようやく届いたタイヤを、メカニック総出でマシンに装着。タイヤウォーマーで予熱する余裕はなかったが、空気圧管理だけはしっかりと行っている。ライダーである片平選手も、師匠高田さんのためにお手伝い。
S1000RRの画像
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コースに飛び出し、予選開始からの遅れを取り戻すべく力走を見せる高田さん。だが、タイヤが暖まったころに赤旗中断。予選再開後に再びタイヤを暖め直さねばならず、タイムアタックできる状態ではなかった。
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チームの期待を背負って走る寺本選手。2本目の走行時、1コーナーでコース外に飛び出しヒヤリとするシーンもあったが、転倒には至らずすぐコースに復帰。コースアウトなどなかったかのように激しく攻めた走りを見せ、ベストタイムは2分13秒0147を記録。予選18位獲得に貢献した。
国際ライダー MFJ公認インストラクター
高田 速人
バイクのタイヤとメンテナンスの専門店「8810R」代表。1976年生まれ、東京都出身。中学2年でミニバイクレースを始め、高校卒業後はロードレースにステップアップ。1996年に国際ライダーへと昇格、全日本選手権や鈴鹿8時間耐久レースなど、豊富なレース経験を持つ。2010年は 【Tras & G-TRIBE + 8810R】 チームによる、S1000RR鈴鹿8耐への挑戦にライダーとして参加。2011年は S1000RR を駆り 、【Team Tras】 の第1ライダーとして鈴鹿8耐に参戦。15位獲得に貢献した。
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