VIRGIN BMW | BMWモトラッドのRナインティ ピュアとアーバンG/Sを試乗インプレ!最新の空水冷フラットツインとは趣が異なる、Rナインティならではの世界 特集記事&最新情報

BMWモトラッドのRナインティ ピュアとアーバンG/Sを試乗インプレ!最新の空水冷フラットツインとは趣が異なる、Rナインティならではの世界
掲載日/2021年8月6日
写真/伊井覚 取材、文/中村友彦
構成/バージンBMW
王道路線のR1250系とは狙いが異なるフラットツインとして、世界中で支持を集めているRナインティ。昔ながらのフィーリングが満喫できるだけではなく、カスタムを楽しむ素材としての資質を備えるこのシリーズは、昨今ではBMWにとって重要な柱の1つになっている。

2021年型で、まさかの? 大幅刷新を敢行

近年のネオクラシックブームに対応する形で、BMWがヘリテイジシリーズの第1号車、初代Rナインティを発売したのは2014年のこと。もっとも当初の僕はこのモデルに、伝統の空油冷フラットツインの最後を飾る限定車……というイメージを抱いていた。あの頃の2輪業界では、約20年にわたって熟成を続けて来た空油冷フラットツインは、以後の排気ガス規制への対応が難しいと言われていたし、BMWの王道と言うべきR1200シリーズは、2013年から全面新設計となる空水冷フラットツインの導入を開始していたのだから。



だがしかし、以後のBMWは、ピュア、レーサー、スクランブラー、アーバンG/S、/5など、Rナインティのバリエーションモデルを次々と発売。2021年型では燃焼の要となるシリンダーヘッドが刷新され、ライディングモードプロやABSプロ、クルーズコントロール、アダプティブヘッドライトの採用など、電装系の充実化も行われた。となると、Rナインティシリーズは今後も安泰なのだろうか? それは何とも言えないけれど、昔ながらのフィーリングが満喫できるだけではなく、カスタムを楽しむ素材としての資質を備えるこのシリーズは、昨今ではBMWにとって重要な柱の1つになっているのだ。


足まわりの差異で各車各様の個性を構築


1970年代のスーパースポーツを思わせるレーサー、アニバーサリーモデルの/5の販売はすでに終了しているので、現時点で新車が購入できるRナインティシリーズは、注釈ナシの原点モデル、ピュア、スクランブラー、アーバンG/S、そしてアーバンG/Sの特別仕様=40周年記念車の5機種。これらの概要を説明すると、ダイヤモンドタイプのスチールフレームに、熟成が進んだ空油冷フラットツインを搭載することは全車共通。ガソリンタンクや灯火類、ブレーキなども同じ部品が使われている。


ではシリーズの中で乗り味に差異を生み出しているのは何かと言うと、主に足まわりである。原点モデルが倒立フォーク+前後17インチのスポークホイールだったのに対して、ピュアは正立フォーク+前後17インチのキャストホイールを採用。そしてスクランブラーとアーバンG/Sの特徴は、前後ショックのストロークが原点モデルやピュアより長いことと、フロントに19インチを履くこと。こういった差異を設けた結果として、基本設計を共有しながらも、Rナインティシリーズは各車各様の車格感とライディングフィールを実現しているのだ。


フレンドリーなピュアと、旧車感が味わえるアーバンG/S



当記事で紹介するピュアとアーバンG/Sの40周年記念車は、好対照と言うべき資質を備えている。



まずはピュアの特徴を説明すると、このモデルはいろいろな意味でフレンドリーなのだ。他のRナインティシリーズと比べると、ピュアは価格が10~40万円ほど安いし、場面によっては倒立フォークの挙動に微妙な硬さを感じる原点モデル、人によってはフロント19インチの挙動に慣れが必要なスクランブラー&アーバンG/Sと比較すると、ピュアはすべての挙動が非常にナチュラル。シートが低いこともあって(原点モデルと同じ805mm)、乗り始めの段階から長年付き合った愛車のように、どんな人でも気軽にスイスイ乗れてしまいそう。



一方のアーバンG/Sは、前述したフロント19インチの特性に加えて、シートがシリーズの中で最も高い850mmだから、フロント17インチの近年のロードバイクしか経験がないライダーや小柄な人は、多少の抵抗を感じるかもしれない。でも僕自身は、旧車を思わせるアーバンG/Sのハンドリングに、かなりの好感を抱いている。と言うのも、誰が乗ってもスッと曲がれそうなフロント17インチに対して、フロント19インチはセルフステアの引き出し方次第で、旋回の印象が変わって来るのだ。もちろん、単純な旋回性は17インチのほうが優位だが、ムキになって飛ばさなくてもコーナリングが楽しめるのは、個人的にはフロント19インチではないか?……と思う。


1923年型R32から継承して来たレイアウト

そういった乗り味の違いはさておき、僕がRナインティシリーズ全車共通の美点と考えているのは、マシンの“芯”が感じやすいことである。その原因はパワーユニットのレイアウトで、2013年以降の空水冷フラットツインが、エンジンとミッションを一体化したうえで、クランクシャフトの下にクラッチ+ミッションを配置するのに対して、Rナインティが搭載する空油冷フラットツインは、1923年型R32から長きに渡って継承して来た、クランクシャフトの背後/同軸にクラッチ、その後方にミッションケースというレイアウトを採用している。


この2つのどちらが優れているかと言ったら、小型軽量化や縦置きクランク特有のトルクリアクションの緩和という面では、間違いなく前者だ。でもオートバイの“芯”となるクランクシャフトの存在感は、空油冷フラットツインのほうが明確で、クランクシャフトを軸にして車体が左右にバンクしていく軽快感と安定感が堪能しやすい。往年のBMWを熟知しているベテランがこのフィーリングを味わったら、1960~1980年代に販売されたR50やR75/5、R100などを思い出すんじゃないだろうか。


さて、途中から話がマニアックな方向に進んでしまったけれど、そんなことを知らなくても、Rナインティシリーズのオーナーになったら、誰もがモーターサイクルの原点と言うべき魅力が堪能できるに違いない。他メーカーのネオクラシックと比べると、価格はやや高いものの、このシリーズにはそれだけの価値があるのだ。


空油冷フラットツインは、2010~2013年型R1200シリーズ用がベース。2020年型までの最高出力は110ps/7750rpmだったものの、ユーロ5に適合する2021年型は109ps/7250rpmとなった。

アーバンG/Sの40周年記念車は、削り出しのシリンダーヘッドカバーやアクラポビッチの2本出しアップマフラー、ナックルガードなど、数多くの純正オプションパーツを標準装備。

メーターはシンプルなアナログ式。原点モデルは回転計を装備するが、ピュアとスクランブラー、アーバンG/Sは速度計のみ。メーター内の液晶画面には、オド/トリップメーターに加えて、時計や油温、現在選択しているライディングモードなどを表示。ピュアには「DYNA」、アーバンG/Sには「DIRT」モードが搭載されている。

スロットルが電子制御式になったため、2021年型Rナインティシリーズの右側スイッチボックスにワイヤーは存在しない。

左側スイッチボックスの上部に備わるのは、2021年型から新規採用されたクルーズコントロールの設定ボタン&レバー。

前後分割式のシートはカスタムパーツを思わせるデザイン。日本仕様のRナインティはシート下にETC2.0ユニットを標準装備。

悪路での体重移動を考慮して、アーバンG/Sは前後一体式のフラットなシートを採用する。40周年記念車はスペシャルデザイン。

リアサスはBMW独自のパラレバーで、リアショックは直押し式。ピュアのキャストホイールはF:3.50×17/R:5.50×17。

日本仕様のアーバンG/Sは、オフロードイメージを高めるクロススポークホイールを採用。サイズはF:3.00×19/R:4.50×17。