VIRGIN BMW | 市街地・峠・高速で徹底試乗! R1200RS オールステージインプレ ステージ別徹底インプレ

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BMW Motorrad R1200RS

市街地・峠・高速で徹底試乗! R1200RS オールステージインプレ

  • 掲載日/2017年02月03日【ステージ別徹底インプレ】
  • Text / Tomohiko NAKAMURA  Photo / Shinichi TSUTSUMI
    ※本記事は2015年発行BMW BIKES 73号別冊付録VirginBMWに掲載したものです。

インパクトや気軽さという面では他のBMWに劣るかもしれない。とはいえ、空水冷フラットツイン第4のモデルとして登場したRSにはスポーツツアラーの王道と言うべき資質が備わっているのだ。

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明確になったスポーツツアラーとしての存在意義

オートバイの定番ジャンルとして、ひと昔前は世界中のライダーから堅実な支持を集めていたものの、ここ最近は下火になっていた感があるスポーツツアラー。その背景には、悪路走破性に優れるアドベンチャーツアラーの台頭や、長距離の快適性を重視してきたグランドツアラーの守備範囲拡大、などという事情があるような気がするけれど、いずれにしてもこのご時世に新しいスポーツツアラーを開発するのは、見方によっては大胆なチャレンジである。だから2014年秋にRS復活の第一報を聞いたとき、僕の頭には“なぜ今?”という疑問が浮かんだのだが……。

半年前に本誌の試乗でこのバイクを体感した僕は、“なるほど、これはいいところを突いてきたなあ”と、しみじみ感じたのだった(詳細はBMW BIKES 71号に掲載)。端的に言うなら新世代のRSは、エンジンの基本を共有するR1200GS/RT/Rとはまったく異なる、いや、似て非なるキャラクターを獲得していたのだ。もちろん、かつてのR1100/1150RS(1993~2004年)やR1200ST(2005~2007年)だって、兄弟車とは差別化が図られていたのだが、最新の電子制御とSシリーズで培ったノウハウが投入された新型RSは、かつてよりスポーツツアラーとしての存在意義が明確になっている。逆に言うなら、スポーツツアラーとしての魅力をしっかり作り込めたからこそ、BMWは伝統のネーミング、RSの復活に踏み切ったのだろう。

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そんなRSの乗り味を記すにあたって、当初の僕は半年前の記憶を掘り起こして文章を書こうと思っていたのだが、編集部が撮影用としてオプション装着車を準備してくれたので、今回はこのモデルにじっくり乗り込み、あらためてRSの魅力を考えてみることにした。と言っても、印象のほとんどは以前の試乗と同じだったのだけれど、疑心暗鬼な気持ちで乗り味を探った半年前とは異なり、今回の僕は、“このライディングフィールなら、世界中で大ヒットして当然だろうな”と感じたのである。

高速道路

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ウインドプロテクションよりも運動性を重視

ちょっと曖昧な表現になるけれど、“スポーツと旅を楽しむビッグバイクとしてほど良い大きさ”というのが、半年ぶりにRSと対面した僕の印象だった。ネイキッドのRほどの気軽さはないものの、車格が大きなGSやRTで感じるような緊張感(すぐに慣れるのだが)は微塵もない。言ってみれば、自然体で付き合えるのがこのモデルの特徴で、よくよく考えるとこの“ほど良さ”は、RSの全性能に適合する言葉かもしれない。なお今回の試乗車はハイシートを装着しており、座面高が820mmのこの製品には、十分なクッション性が確保されていることに加えて、ヒザの曲がりが緩やかになる(=下半身が楽になる)、前輪に荷重がかけやすくなる、という美点が備わっていた。もちろん、足着き性では日本仕様で標準のローシート(760mm)が一番だが、RSの本質を堪能したいライダーはこのハイシート、あるいは本国標準シート(790mm)かスポーツシート(840mm)を試してみるべきだと思う。

さて、続いては高速道路での印象を述べたい。まずはこの場面でもっとも重要な直進安定性に関しては、他のBMWと同様にいたって盤石である。法律的に許されるなら、最高速に近い領域での巡航も余裕でこなせるだろう。とはいえ、かつてのRS/STや現行RTと比較すると、新型RSの“守られ感”は、僕には少々希薄に感じられた。実際に同条件で比較しないと何とも言えないところだが、もしかすると走行風のシャットアウトという点では、GSのほうが上かもしれない(RSは2段階調整式スクリーンをハイの位置にしても、頭頂部と肩に適度な風が当たる)。

ただし、僕自身はそれが悪いこととはまったく思わなかった。何と言ってもRSは、高速走行時にS1000RRを彷彿とさせる、キビキビした運動性能を発揮してくれるのだから。たとえばレーンチェンジの瞬間を考えると、RTやGSではフロント周りにちょっとした重さを感じる場面でも、RSはスパッと軽やかな進路変更が出来てしまう。このソリッドなハンドリングとウインドプロテクションがトレードオフの関係にあるなら、現状の防風性能に文句を言うのは野暮というものだろう。

ちなみに、ケース類の装着によるハンドリングへの影響は、パニア:ごくわずか、トップ:意外に大きめ、という印象だった。このあたりはRTやGSなどとは異なる部分だが、RSの場合はパニアのみのほうが、本来の資質を維持しやすいようだ。

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スクリーンの高さ調整は2段階(写真はハイ)。なお現在のアフター市場では、すでにRS用として多種多様なスクリーンが販売されている

ワインディング

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現行フラットツイン随一のコーナリング性能

新型RSがもっとも輝く場面と言ったら、それは間違いなくワインディングだろう。と言っても、近年のRシリーズはどのモデルもコーナリングが楽しめるし、もし現代の空水冷フラットツインで旋回性能を徹底追求するなら、かつてのR1200SやHP2スポーツのように、快適性を犠牲にして小型・軽量化を促進するという手もあるけれど、それをやったらRSではなくなってしまう。このあたりはなかなか表現が難しい部分だが、大前提としてツーリングが楽しめる汎用性を備えながら、峠道を通過する際は思う存分スポーツライディングが満喫できる、というのが新型RSの特徴なのだと思う。

今回の試乗で峠道を70kmほど走ったなかで、僕が特に印象に残ったのは、マシンとの一体感が濃厚だったことと、フロントタイヤをきっちり使えている感が得やすいことだった。まずは前者について説明すると、これは単純にエンジンと乗り手の距離の問題で、乗車姿勢が適度な前傾になるRSの場合は、他のRシリーズよりエンジンの存在感、と言うか、クランクシャフトの芯を感じやすい。大げさな表現をするなら、クランクシャフトを軸にして車体がロールする感覚が得られて、乗り手としてはそれが実に心地良いのである。

一方のフロントタイヤを使えている感は、Sシリーズ譲りのテレスコピックフォークを採用したことが最大の原因だが(RTやGSが採用するテレレバーとは異なり、車体のピッチングを制御しやすい)、前述した乗車姿勢とカウルの装備によるフロントまわりの重量増が原因なのだろうか、同じ機構を採用するネイキッドのRよりも、RSのほうが瑞々しく接地感が伝わってくる。もちろん、そうなれば走るペースも徐々に上がって来るのだけれど、常識的な速度で走っていても、かなりの充実感が得られるのはRSならではの魅力。このあたりは飛ばしてナンボのSシリーズとは対照的で、やっぱりRSはツーリングを前提に作られているのだなあ、と僕は感じたのだった。

なおセミアクティブサスのダイナミックESAやトラクションコントロール、ABSといった電子制御に関しては、かつてはライディングプレジャーを阻害するという意見もあったようだが、RSをふくめた現代のBMWで、そういった印象を抱く場面はほぼ皆無になっている。と言うか、僕のような普通のライダーにとっては、状況に応じた適切なサポートを、ありがたく感じる機会のほうが圧倒的に多くなっているのだ。

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電子制御式のφ45mm倒立フォークは、兄弟車のR1200Rに通じる装備だが、RSではアクスル部をオフセットすることで、トレールとホイールベースの最適化を実施

市街地

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毎日の通勤にも使えるレベルの汎用性

スポーツ性に特化したモデルやロングランを重視したバイクは、市街地を走ると何らかのストレスを感じるのが普通である。具体的には、攻撃的な乗車姿勢に窮屈さを感じたり、車格の大きさがツラくなったりするのだが、RSで東京都内を走った僕は、そういった不満は一切抱かなかった。もちろん市街地に的を絞るなら、ネイキッドのRのほうがイージーではあるけれど、RSの汎用性も侮りがたいものがあって、その気になれば毎日の通勤にも使えそう。言ってみればRSは、環境変化に強いのだが、環境変化といえば、タンデムライディングで感じる乗り味の変化の少なさも、このバイクを語るうえでは欠かせない要素だろう。

もっともタンデムでの快適性に関しては、近年のフラットツインはいずれも優秀な性能を持っているのだけれど、僕はその性能はテレレバーを抜きにして語れないものだと思っていた。でも新型RSはテレスコピック式フォークを採用しているにも関わらず、タンデムが快適なのだ。と言っても、それはサス設定を2人乗りにした場合の話で、1人乗りのままだとハンドリングが露骨に悪くなるのだが、今回の試乗でこのあたりの変化を体感した僕は、現在のBMWは、電子制御の有効な活用法を完全に習得しているのではないか……という気分になったのだった。

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さて、長々と印象を記してみたが、新型RSはとにかくツブシが利くモデルである。場面によっては兄弟車のRTやGS、Rが優勢に立つこともあるけれど、一般的かつ日常的な使い方のなかで、このバイクに不満を感じる機会はほとんどないだろう。そう考えるとこのモデルは、今後は空水冷フラットツインの指針、と言うべき存在になるのかもしれない。

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扱いやすさに磨きがかかってきた空水冷フラットツイン。シフトアシスタントPROのおかげで、ギアチェンジはものすごく楽チン。

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