VIRGIN BMW | #07 戸田さんのS1000RRレーサー S1000RR 全日本選手権参戦記

#07 戸田さんのS1000RRレーサー

  • 掲載日/2012年10月31日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
  • 取材協力/G-TRIBE  文・写真/淺倉 恵介
S1000RRレースの画像

今回は、戸田さんが MFJ 全日本ロードレース選手権で、実際に使用している S1000RR レーサーをご紹介します。全日本最高峰クラスを戦うレーシングマシンとは一体どのようなものなのか? あなたの愛車のカスタマイズのヒントも見つかるかもしれません。

レーシング仕様から見えてくる
S1000RRの本質

リザルトを見ただけではわからない、レースの内側をリポートしているこの企画。今回は、戸田さんが MFJ 全日本ロードレースの JSB1000 クラスで使用している S1000RR の秘密に迫ります。

「ん~? 秘密なんて何にもないけどね」

そんな! しょっぱなから話のコシを折るような…

「まあ、早まるな。秘密のチューニングを必要としないのが、S1000RR の S1000RR たる由縁ナノダヨ」

でも、確かに意外なほど改造されていませんよね。全日本 JSB1000 と言えば、国内レースの最高峰ですよ。どんなにスゴいチューニングが施されているかと思いますけど、エンジンなんか完全にノーマルですよね。

「フロントフォークが特殊と言えば特殊だけど、それ以外は誰もが入手出来るパーツしか使ってないからね。ちょっとお金のかかったカスタムマシンのほうがよっぽどいじってあるよ。セッティングは詰めてあるけどね。まあ、国産メーカーのマシンと違って、レース用のキットパーツをメーカーが用意していないから、改造のしようがないというのがホンネのところ。でも、そんなノーマルに近い状態でも S1000RR は全日本を戦えてしまう。これは本当にスゴいことなんだ。S1000RR のパフォーマンスは素晴らしいよ。無理なチューニングをしていないから、エンジンが壊れる心配はほとんどないし、メンテナンスサイクルも驚くほど長い。自分のマシンも、シーズン中にエンジンを開けることなんてない。お金をかけずにレースをしたいなら、S1000RR が一番じゃないのかな?」

S1000RR とは、それほど元々のポテンシャルが高いマシンだということなのですね。ではセッティングの方向について教えてください。

「現行モデルの S1000RR は、初代モデルから比べると随分レース向きに変わっているんだ。その辺りは自分の インプレッション に詳しく書いてあるんだけど、一番大きな変化はフレームとディメンジョン。具体的にどうなったかというと、コーナリングでより積極的に曲げていけるようになった。先代モデルはスタビリティが勝っていて、ロードバイクとしては素晴らしかったんだけど、レーシングマシンとして見ると機敏さに欠ける部分があったのね。そこを現行モデルでは改善してきたというワケ」

よりレースを意識したモデルに生まれ変わった、と。

「実際に今年は WSBK でも好調だったでしょ? チャンピオンこそ逃したけど、最多優勝回数を記録したのは S1000RR だからね。BMW はレースに勝つには何が必要かを考えて、正しくモディファイしてきたね」

確かにマルコ・メランドリ選手の WSBK での活躍は目覚ましいものがありました。

「とは言っても、レース一辺倒のモデルじゃないんだ。そこはやっぱり BMW のバイクでね、ストリートでの安全性をしっかり考えたマシンに仕上がっている。現行の S1000RR も、初代から変わらずスポーツランを安定して楽しめるマシンであると思う。その S1000RR ならではスタビリティを崩さずに、よりコーナリング性能を上げる方向のセッティングを狙っているんだ」

なるほど。では、今後はどんなモディファイを考えているのでしょう?

「シャシーのセッティングもまだまだ思考錯誤中だけど、これからはエンジンにも手を入れていこうかと考えている。昨シーズンまではパワー不足を感じたことはなかったんだけど、どうも今年は単純な速さで負けている気がするんだ。S1000RR が遅くなったんじゃなくて、周りのバイクが速くなってきているね。解決策は見えてるんだ。S1000RR のエンジンは、きっちり組み上げるだけでも随分と速くなるからね。G トライブでも S1000RR のエンジンチューンをサービスに加えようかと考えているから、オーナーの皆さんは期待していてください」

S1000RR でのレース活動の目的のひとつである “レースで得たノウハウをユーザーに還元する” ことを実現するわけですね。ユーザーの皆さん、楽しみに待っていてください。なお、今回紹介したマシンの仕様は、オートポリス Rd. 時点のもの。レーシングマシンはコースに合わせて様々な部分に手を加えるものなので、次のレースではまた違った仕様になっているかもしれません。そうしたマシンの進化に注目するのも、楽しいものです。

次回は、全日本第8戦 岡山国際サーキット Rd. のウラ話をお伝えします。

S1000RRレースの画像
カウルは『マジカルレーシング』製のレース専用品を使用。アッパーカウルとテールカウルはFRP製、タンクカバーとアンダーカウルはカーボン。ペイントは福島のペイントショップ『シルクロード』が担当している。
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ホイールは『O・Z』のマグネシウム鍛造16.5インチを使用。ブレーキキャリパーは『ブレンボ』で、ブレーキローターは『サンスター』。フロントフォークは『ショーワ』のレース用で、内部はGトライブでモディファイを加えてある。アクスルシャフトはトGトライブ製のクロモリシャフト。このマシンに使用されているのはレース用だが、ノーマルS1000RRに装着可能なストリート用を販売中。
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フロントブレーキのマスターシリンダーは『ゲイルスピード』のラジアルマスターをチョイス。「ある企画でこのマスターをテストしたことがあって、フィーリングが気に入ったので使っています。ハードブレーキングを繰り返してもタッチが変わらないし、良いですよ」とのこと。
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トリプルツリーはGトライブと『ウイリー』のコラボパーツ。トップブリッジの剛性バランスにこだわった、最新の設計を採用。このマシンに装着されているのはレース用にフォークスパンを拡げたワンオフ品だが、ノーマルフォーク対応のストリート仕様がGトライブで販売中。
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スイングアームはノーマルを使用。タイヤ交換を容易にするための加工は施されているが、剛性アップのための補強などは行われていない。リアホイールはフロントと同様にO・Zのマグネシウム鍛造で17インチ。チェーンは『RKジャパン』のレース用、タイヤはブリヂストン。スタンドフックは『ビトーR&D』製。
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リアショックは『ハイパープロ』を装着。ディストリビューターであるアクティブと共同開発したもので、専用のリンク同梱キットをGトライブで販売中。
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ステアリングダンパーは『オーリンズ』のツインチューブタイプを使用。
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クラッチレバーはBMW純正オプションのHPパーツをチョイス。レバー形状が抜群に良く、握り心地に優れているとのことだ。
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ステップはGトライブ製のオリジナルレーシングステップ。日本人の体格に合わせた設計で、ステップ位置が40mmアップ、20mm前進する。正/逆チェンジ対応。このマシンに装着されているのはプロトタイプのため、製品版とは細部が異なる。
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エンジン内部は完全にノーマル。ECUはHPのキャリブレーションキットを使用してセッティングを変更。キャリブレーションキットはインジェクションの燃調の他、DCTの設定も変更可能。エアクリーナーエレメントは『DNA』を装着。
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マフラーは『ノジマ』のDLC-TITANを装着。中速のトルク特性を重視した設計で加速特性に優れ、コーナーの区間タイムが向上するマフラーとのこと。
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タンクエンドカバーはマジカルレーシングのカーボン。タンク後端を持ち上げてボリュームを増やした形状のため、ブレーキング時などでライダーのホールド性が向上する。
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タンクキャップは『TWM』製のレース用に交換される。キャップの開閉時にイグニッションキーが不要なため、素早い給油作業が可能。
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インスツルメンツパネルはノーマルをそのまま使用する。S1000RRは先進的な電子制御を行っているが、その分電気系は複雑。ECUとインスツルメンツパネル、キーシリンダーの3点をセットで使用しないとエンジンが始動できないため、現時点ではメーター交換はできない。だが、視認性も良好で、レースで使用しても特に問題はないそうだ。
S1000RRレースの画像
今回ご紹介したマシンの仕様はオートポリス Rd. 時点のものです。レーシングマシンはコースに合わせて様々な部分に手を加えるものなので、次のレースではまた違った仕様になっているかもしれません。そうしたマシンの進化に注目するのも楽しいものです。
国際ライダー
戸田 隆
バイクのサスペンションとシャシーの専門ショップ 『Gトライブ』 代表。セッティング能力とマシンの分析能力には定評があり、ジャーナリストとしても活躍中。BMW でのレース経験は豊富で、鈴鹿8耐では R1100S や K1200R で、もて耐では K1200R や HP2 Sport で参戦(HP2 Sport では優勝も果たしている)。2010年からは国内レースの最高峰 『MFJ全日本ロードレース選手権』 の最速クラス 『JSB1000』 に S1000RR を駆って参戦中。 戸田さんのブログ も要チェック。
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