VIRGIN BMW | #03 鈴鹿8耐ウラ話(その2) S1000RR 全日本選手権参戦記

#03 鈴鹿8耐ウラ話(その2)

  • 掲載日/2012年09月05日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
  • 取材協力/G-TRIBE  文・写真/淺倉 恵介
S1000RRレースの画像

戸田 隆選手の8耐参戦リポートのはまだまだ続きます。今回は8耐を走り終えた戸田さんが、マシンやチームメイトについて語ってくれました。理論派ライダーとして知られる戸田さんが、タイヤについて解説している部分はマニアなら必読です。

タイヤの違いが、マシンを変える!?
そして、共に戦ったチームメイトへの言葉

前回は、8耐を走った戸田さん自らがレースのインサイドストーリーを語ってくれましたが、今回はその後編。メカニック的な話題やチームメイトについてコメントしてくれました。

…では、メカ的な話もお願いします。戸田さんは全日本ロードレースではブリヂストンのタイヤを使っているわけですが、8耐ではダンロップのタイヤを使いましたよね。その2メーカーのタイヤの違いは、如何なものだったのでしょうか? 一部のマニアの皆さんが気にしているようですので、是非お願いします

「最初に感じたのがバックトルクの発生の仕方が違うことだね。いつもブリヂストンで走っている時は、スロットルをオフにした時に燃料をカットしているんだ。これはエンジンの回転が落ちるようにしているインジェクションのセッティング。つまり、バックトルクを強めているワケ。けれど、今回ダンロップのタイヤは、スロットルオフの時でもいくらか燃料を吹かせるセッティングだったんだ。それでも、いつもの感覚でコーナーに入っていくと、速度がいつもより落ちている。つまりダンロップの方がバックトルクが大きかったんだ。これがどういうことかというと、グリップを発生させるための考え方の違いだよね。」

その “違い” の部分を説明してください?

「例えばだけど、タイヤの表面に両面テープが着いているとするでしょう? それを路面で転がせばグリップするよね。それがダンロップのタイヤ、タイヤの表面に粘着性があるって感じかな? 対してブリヂストンは、タイヤの表面はサラッとしているんだけど、荷重をかけるとグリップが出る。アスファルトの表面はデコボコしているでしょう? そのデコボコの部分にタイヤがスパイクみたいに食い込んでグリップを出しているんだ。だから、荷重がかかっていない時は、転がり抵抗が小さくてスーッと回る。そのせいでリアタイヤの荷重が抜けているブレーキング時には、バックトルクが小さいんだよね。ダンロップは表面が粘着質だから、荷重が抜けているブレーキング時でも、リアタイヤは抵抗が大きくてバックトルクも強いってこと。」

なるほど! ではどちらのタイヤが優れていると言えるのでしょうか?

「どっちが良いかというのは難しいよね。乗り手の好みもあるし、タイヤの特性に合わせた車体のセッティングが出来ているかでも変わってくる。路面との相性もあるわけだし一概には言えないよ。そのレースで速かったマシンが履いていたタイヤが、良いタイヤってことだよ(笑)。まあ、今回の8耐に関して言えば、自分はタイヤに合った走り方を掴みきれたとは言えないから、悔しい部分もあるよね。もうちょっとイケた気もするんだよなあ…」

その負けず嫌いというか、向上心がステキです。8耐は耐久レースなわけで、1人では走れませんよね。その、チームを組んだ2人のライダーについてもコメントをお願いします。

「高田選手はねえ、スゴく大変だったと思うよ。『Team Tras』 のクルーは BMW のエキスパートではあるけど、日頃レースをやっている人達ではないよね? メカニックは基本的にディーラーのマイスターの皆さんだし、スタッフも8耐のために集まってくれたボランティアだからね。マシン作りの方向性やチーム運営についても彼が引っ張っていかなきゃならなかった部分があったハズ。チームは好きで集まっていると言っても、8耐はすごくお金がかかるレースだし、“楽しかった” だけじゃ済まない部分もあるんだ。彼は責任感が強い男だから、リーダーとして相当なプレッシャーだったと思う。チームのエースライダーとしてタイムも出さなきゃいけない立場だし、よく頑張ったよね。」

では、8耐初参戦だった松下選手は?

「松下選手はね、8耐が初めてだっただけでなくて、鈴鹿サーキットを走ることも初めてだったでしょ? レース前にしっかりと練習できていたわけでもないし、そんな中でがんばったよね。コースに慣れてきたらタイムもドンドン上げていたし、あの適応力は大したものだと思う。でもマン島 TT なんか走っているから、不慣れなコースに強いのかもね? マン島なんて1周 60km もあって、コーナーも 200 以上あるわけじゃない? コースを完璧に覚えるなんて無理だよ。松下選手の頑張りは、マン島での経験が活きているのかもね。とにかく初めてづくしの8耐の中で、よくやったと思います。」

それでは、最後に戸田さん自身についてお願いします。

「8耐に向けてテストを開始した頃、最初に思ったのが “あ、オレなまってる” だったんだ。今年はシーズンの頭でケガをしちゃったから、やっぱり走り込みが足りなかったんだよね。復帰戦だった筑波の全日本では、レース中完全に体力が切れちゃったしね。だから、8耐に向けてはチームのスケジュールとは別に、自分の S1000RR で走り込みをしたよ。そのおかげで8耐もバテることなく走りきれたし、自分のレースである全日本の後半戦を戦い抜ける確信も持てた。」

8耐は結果的に良いトレーニングになったということですか?

「トレーニングにしちゃあ過酷過ぎるよ(笑)。8耐はそんな甘いレースじゃないの! 自分も本気で頑張ったの! チームの皆とスポンサーとして協力いただいた方々、そして応援してくれたファンに皆さんには、ここで改めてお礼を言います。ありがとうございました。今年の8耐は終わりましたが、全日本ロードレースはこれからが本番です。皆さん応援よろしくおねがいします!」

バージン BMW 読者の皆さん、これからも戸田さんと S1000RR の奮闘ぶりに注目してくださいね!

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純レーサーから市販車の改造車、下は 50cc から上はリッターオーバーまで、様々なバイクでのレース経験を持ち、どんなバイクでの乗りこなしてしまう戸田さんだが、メーカーの異なるレーシングタイヤの特性を掴むのには苦労した様子。それでも、しっかりと結果を出すのはさすがだ。
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戸田さんはチームクルーとのコミュニケーションを大切にする。メカニックとマシンについて話し合い、チームを組むライダーとミーティングを重ね、プラットフォームに立つサインマンとも打ち合わせる。戸田さんは注文の多いライダーではない、セッティングにはうるさいが、用意されたマシンでその時実現出来る最高のパフォーマンスを引き出すように努力する乗り手だ。ではなぜ、頻繁にクルーと会話するのか? 耐久レースの経験が豊富な戸田さんは、耐久レースがチーム力を争う競技であり、チーム全体のコミュニケーションが重要なことを知っているからだ。
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共に8時間を戦ったライダー2人とも、戸田さんとは付き合いが深い。中央の高田速人選手は、戸田さんとは古いレース仲間であり、一昨年もチームを組み S1000RR での8耐初参戦を果たしている。左の松下佳成選手は、HP2 SPORT を駆り「もてぎ8時間耐久ロードレース」を制した時のチームメイトである。
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第1ライダーの高田速人選手は、今回で3年連続 S1000RR で8耐参戦を果たしている。日本人ライダーとしては、S1000RR での耐久レースのスペシャリスト的な存在だ。高田さんの昨年の8耐は本サイトコラム 『S1000RRの楽しみ方』 でチェック。
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マン島TTライダーとして知られる松下佳成選手は、第2ライダーとしてチームに参加。マン島 TT やルマン24時間、ボルドール24時間でも S1000RR をライディングしている。S1000RR でのレース経験は十分で、8耐には満を持しての参戦だった。
国際ライダー
戸田 隆
バイクのサスペンションとシャシーの専門ショップ 『Gトライブ』 代表。セッティング能力とマシンの分析能力には定評があり、ジャーナリストとしても活躍中。BMW でのレース経験は豊富で、鈴鹿8耐では R1100S や K1200R で、もて耐では K1200R や HP2 Sport で参戦(HP2 Sport では優勝も果たしている)。2010年からは国内レースの最高峰 『MFJ全日本ロードレース選手権』 の最速クラス 『JSB1000』 に S1000RR を駆って参戦中。 戸田さんのブログ も要チェック。
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