VIRGIN BMW | F800GT(2013-) 試乗インプレ

F800GTの画像
BMW Motorrad F800GT

F800GT(2013-)

  • 掲載日/2013年08月22日【試乗インプレ】
  • 取材協力/BMW Motorrad Japan  取材・写真・文/淺倉 恵介

Fシリーズの中核を担うために
新しく生まれ変わったツーリングモデル

BMWのミドルクラスセグメントを担うFシリーズに、新たに加わったF 800 GT。本モデルは、ツーリング向けモデルとして高い評価を得ていたF 800 STの後継機種的な位置づけのモデルである。アルミニウム製ブリッジフレーム、片持ち式のスイングアームにベルトドライブといった、車体を構成する基本的な要素をF 800 STから引き継ぎながら、スタイリングをドラスティックに一新。新たにGTの名を冠して登場した。

このFシリーズの800クラスにおいて、最初の機種として生み出されたのがF 800 Sだ。水冷並列2気筒エンジンを搭載したスタンダードなスポーツバイクで、コンベンショナルなテレスコピック式フロントフォークの採用や、片持ち式スイングアーム、ベルトドライブの装備が特徴である。その後、エンジンとフレームの基本コンポーネンツを共有しながら、よりツーリングに特化したF 800 ST、駆動方式をチェーンに改めたストリートファイター的なネイキッドF 800 Rが登場。さらに、同系エンジンをトレリス構造パイプフレームに搭載するエンデューロ指向のGS系にまでシリーズは拡大。世界中で高い支持を得ているのは周知のとおり。その最新機種であるF 800 GTは、F 800 S直系の車体構成を持つこのシリーズの本流。ファミリーの中核を担うモデルといっていいだろう。

F800GTの特徴

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車格を大きく変えずにホイールベースを延長
装備面は標準品だけでも充実

実車を前にすると、F 800 STと比べて大きくなったとの印象を受ける。実際にホイールベースを比較すると、F 800 STが1,466mmなのに対し、F 800 GTでは1,514mmと、50mm近く伸ばされている。だが、全長はF 800 STが2,195mmでF 800 GTでは2,180mmと小さくなっているのだ。この寸法の違いは、全長が長く変更されたスイングアームによるものである。

数値的にはあまり変わっていないのに大型化したように見える理由は、カウルにボリュームがあるためだ。前方向から見ると大柄に見えるF 800 GTだが、真横から眺めると逆にコンパクトに感じられる。シートが低い部分がウエストのくびれのようで、トランジスタグラマーといったイメージ。跨がってみるとダミータンクがかなりボリューミーで、またもや実際の数値より車格が大きいような印象を受ける。カウルのインナーパネルの面積も広いため、このシリーズ共通デザインのメーターが小さく感じられてしまう。メーターの視認性は良いし機能的にも不満はないのだが、せっかくなので専用デザインのメーターが欲しかったところ。ライディングポジションは、コンパクトでリラックスしたもの。ハンドルは高めにマウントされるパイプハンドルで、絞り角も緩く上体の前傾は緩い。シート高は765mmと、かなり低い部類。小柄なライダーには朗報だが、下半身が窮屈に感じる人もいるだろう。

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ツーリングモデルらしく、大きめのキャリアを標準装備。タンデムシートがフラットなこともあり、車両単体での積載性もかなり高い。もちろん、オプションでトップケースとサイドケースも用意されている。ただし、コンパクトなF 800 GTの車体に合わせた設計のため、他車種用のケースと比較すると容量は若干小さめであるのは残念。積載性だけを優先するのなら、社外品も選択肢に入ってくるだろうが、フィッティングやリセールバリューまで考えると、やはり純正品が優位。より大型の純正ケースの登場も期待したい。

今のところ、F 800 GTは単一グレードで販売されているので、グリップヒーターとセンタースタンドが標準装備されるのは嬉しいところ。また、デュアルチャンネルABSも標準装備されている。また、メーカーオプションではあるがESAの装着も可能となっている。

F800GTの試乗インプレッション

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ツーリングモデルのイメージを覆す
コーナリングの楽しさに驚かされる

ツーリング向けのモデルといえば、まずは気になるのがコンフォート性。まずは、高速道路を走ってみた。大きめのカウルとスクリーンのおかげで、高速走行時のウインドプロテクションは良好。さすがにR 1200 RTやK 1600 GTLといったレベルには届かないが、充分な防風効果がある。初期作動が柔らかいサスペンションは、高速道路の継ぎ目を超えるとき、その存在はライダーに衝撃を報せながら、突き上げ感を優しく吸収してくれる。直進安定性はどっしりとし過ぎず適度な軽快感が残される。レーンチェンジでは「マシンを動かすぞ」と構える必要はなく、軽く自然にラインを変えていく。この適度な軽快感は、フラットツインエンジン搭載車に通じるものがある。BMWらしさ……を感じる部分だ。また、タンデムでも走ってみたのだが、パッセンジャーの感想は「疲れない」の一言。タンデムでの走行距離は150kmほど、時間にして3時間弱の走行だったが、座面が広めにとられたタンデムシートのおかげで、臀部が痛くなることもなかったとのこと。タンデムランではパッセンジャーの重量分マシンの挙動が大きくなったが、操安性がほとんど損なわれなかったのも高ポイント。二名乗車でも、コーナリングで気を遣う必要はあまりない。ただし、高速道路での走行では若干ではあるがスタビリティが落ちた。やはり、二名乗車に合わせたサスペンションのリセッティングリアショックは行った方が良いようだ。

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細部が煮詰められ、最高出力90PSと歴代最強のパワーを誇るエンジンは、正直なところピークパワーに関しては従来モデルとそれほど大きな差を感じない。むしろ、中間域が力強さを増しているように見受けられた。そもそも、このシリーズのパラレルツインエンジンは、低中速域のトルクにこそ真価がある……と、個人的には考えている。クランクシャフトはシリーズ共通の360°で、並び合うピストンが同時に上下するため、パルス感の強いトルク特性でマシンを力強く前へと押し出してくれる。高回転まで回すよりは、ワイドなギア比を活かしひとつのギアで引っ張ると、加速感が感じられて気持ち良い。同クラスの排気量のエンジンでは、出色の低中速トルクだ。その反面、振動は大きめで、加速時などは強めの振動が手に伝わってくるが、それもこのエンジンの“味”のひとつ。振動は硬質なものなのだが、手が痒くなったりはしないこともお伝えしておこう。排気音は、ダダッと小気味良いが、ノーマルマフラーについてはあまり色気のある音色とはいえないようだ。

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このF 800 GT、ネーミングやスタイリングから大人しめの運動性をイメージしがちなのだが、それは間違い。コーナリング性能が驚くほど高いのだ。コーナー進入時には実に軽快にバンクし、スルスルと曲がっていく。この“スルスル感”がポイント。一次旋回、二次旋回とも良好なのだが、いわゆる“向きかえ”の感触が希薄。“曲げる”と意識し、意図的なマシンコントロールを行わずとも、実にイージーに曲がってしまうのだ。例えば、ギアの選択を誤り充分なトラクションをかけられないような場面――そんなシチュエーションでも、フラフラとしつつもバイクが勝手に曲がってくれる。それでいて、過敏なハンドリングではないところが素晴らしい。適度な手応えがあり、安心してコーナーを楽しめるのだ。島国である日本では、走っていればどこかで峠道に出くわすもの。だとすれば、コーナー無双のF 800 GTは、日本でのツーリングにピッタリなのではないだろうか。

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気になるところを上げるとすれば、フロントフォークの柔らかさ。初期が柔らかく、乗り心地に優れるのは良いのだが、荒れた路面が続くと、バタバタと落ち着かない挙動をみせる。また、ジワッとブレーキをかけるときは良いのだが、急激にブレーキレバーを握り込むと、フロントフォークが一気にボトムしてしまう。これは、ブレーキの制動力の立ち上がり方とも関連している症状だが、あまり気持ちの良いものではない。テレレバーが欲しい……と思ってしまったのも事実である。ともあれ、ワインディングが実に楽しいバイクである。ワイドなギア比を活かしミッションは2速ホールド、減速はバックトルクまかせにして、ライダーはコーナー出口の方向だけを考える。そんな走り方が実に気持ち良く、また速い。ちなみに、タイトコーナーも得意。つづら折れが続くような小さなコーナーが続くワインディングでは、スロットルのオン/オフだけでスパスパと切り返しが決まり、それが実に痛快だ。

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コミューターとしても優秀。バイクがパタパタと寝るので、交差点で曲がるのが実に気軽。軽快なハンドリングは、混雑した道で車線変更を繰り返すことも苦ではない。ただし、カウルが大きめな上にミラーが大きく張り出しており、ハンドル幅も広めなのでスリ抜けは得意ではない。実際には、極端に全幅が大きいわけではないのだが、心理的にあまり狭い空間に入っていきたいという気にならない。だが、スリ抜けはマナー的にも法規的にも勧められない行為。ここは、ライダーの規範たるビーマーらしい行動をお願いしたい。また、エンジンからの熱風には辟易した。試乗は真夏の暑い時期に行ったのだが、走り出して5分もすると、アッパーカウルとフレームの隙間から熱風が吹き出し、ライダーの内股にダイレクトに当たるのだ。ラジエターの冷却ファンが回ると、まるでファンヒーターにあたっているようだ。さらにはニーグリップしようとすると、膝がダミータンクではなくフレームに当たってしまい、これまた熱い。これは、筆者の足が短いことが主な理由なのかもしれないだが、熱風が当たるのは足が長くとも同じことだろう。夏場でもメッシュタイプのパンツは薦められない。

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取り回しについても触れておきたい。シート高はわずか765mm。だが、その数値から期待されるほど足つき性が良いわけでもない。シート幅があるため、足が広がってしまうからだ。とはいっても、BMWの全モデル中、屈指の足つき性の良さであることは事実。これなら体格や体力的な問題でBMWを諦めていた人にも薦められる。ちなみに筆者の身長は165cmほどと小柄な部類。昔ながらの日本人体型で、足が長いとはいえないが、両足のつま先から足の裏の半ばまでは接地するので、足つきには不安を感じることはなかった。ただ、このシート高の設定には疑問を感じる部分もある。F 800 GTには標準装着のシートを含め、4種類のシートが存在する。日本仕様の標準装着品は、その中でもっともシート高が低いエクストラローシート。他は、ローシートの785mm、ハイシートの800mm、コンフォートシートの820mmとなる。

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低いシートでまず気になるのは、ステップとシートの距離が近く、膝が折り畳まれるように感じられること。小柄な自分でも膝の角度が気になることがあったのだから、平均身長以上のライダーであれば窮屈に感じることもあるはずだ。加えて、シートスポンジが薄いことにより、コンフォート性が損なわれている部分もあるだろう。F 800 GTは国内仕様のシートであってもかなり乗り心地が良く、一般的なレベルで考えれば疲労が少ない部類であることは間違いないのだが、BMWのツーリング向けバイクと考えると、もう一段上質なシートを期待してしまうのは贅沢なことだろうか。またシッティングポジションが下がっていることで、ハンドル、シート、ステップの位置関係が本来のものと変わってしまっていることが気になる。シートが下がることで、相対的にハンドル位置が上がり、ライダーの上体は直立気味になる。重心位置も下がるし、前傾姿勢が緩まることで、上体の柔軟性が弱まり積極的なマシンコントロールをスポイルされているようだ。意識して伏せ気味の姿勢をとれば問題ないとも言えるが、ハナからそういう姿勢をとっているのとは違う部分も出てくるものだ。

低いシート高はF 800 GTのセールスポイントのひとつに違いない。だが先述のとおり、シート幅の問題で、数値ほどの足つき性は得られていないとも言える。シート高を下げるだけでなく、シートの角を落とし、幅を詰めるなどすれば不安のない足つき性は確保できるだろう。シートに関しては、さらなる進化を期待したい。幸いなことに、オプションで好みのシートを選択ことができるのだから、F 800 GTの購入に当たっては是非ともオプションのシートの装着も検討してもらいたい。

こんな方にオススメ

乗り手を選ばない懐の広さ
スポーツ性の高さも見逃せない

乗り手を選ばず、どんなライダーにも勧められる一台。ツーリングモデルという先入観を捨てて、スタンダードなスポーツバイクとして捉えて欲しい。それほど、万能で普遍的な完成度を持っているのがF 800 GTなのだ。「フルサイズのフラッグシップに乗りたい」という見栄を捨ててこのF 800 GTに乗ってみれば、これほど楽しめるバイクがあるということを知ってもらえることと思う。また、リッタークラスのスーパースポーツを購入したものの、扱いきれずに持て余している人にもお薦めしたい。コーナリングをよりイージーに楽しめるし、ワインディングの速さは一級品だ。

F800GT の詳細写真

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ヘッドライトはBMWのアイコンであるアンシンメトリーなデザインを採用。大きめのスクリーンは高いウインドプロテクションを誇る。
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ハンドルはトップブリッジ上にポストを設けたパイプハンドルで、アップライトでリラックスしたライディングポジションを構築している。ハンドルバーは、クランプ部が太く剛性に優れるテーパーバータイプを採用。
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メーターパネルはF 800シリーズの共通品を使用しているが、アナログメーターの盤面は専用品。液晶パネルには時計、燃料計、水温計、ギアポジションが常時表示されるほか、切り替え式でさまざまな情報が表示可能。
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右側のハンドルスイッチには、スターター/キルスイッチ兼用ボタンと、グリップヒーターのオン/オフスイッチが設けられている。
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左側のハンドルスイッチにはプッシュキャンセル式ウインカーボタン、ホーンボタン、ライトのHi/Lo切り替えスイッチ、ハザードボタン、メーターの表示情報切り替えスイッチを装備。オプションのESAとASCを装着時に使用するコントロールスイッチも設けられる。
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シート高は765mmと足つき性の良さはBMW屈指。タンデムシートは座面が広く取られ、パッセンジャーの快適性も考えられている。
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燃料タンクは重量バランスに優れるシート下に設けられている。シートはキーで脱着可能だが、シート下には荷物スペースはない。ETCのユニットはオプション。
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ツーリングモデルらしく、大型のキャリアを標準装備。フラットなタンデムシートと併用すれば、かなり大きな荷物も積載可能。専用のトップケース、サイドケースがオプションとして用意されている。
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ウインカーはスタイリッシュなスリムタイプ。光源には消費電力が少なく、長寿命なLEDを採用している。テールランプの光源は通常のバルブだが、LED テールランプもオプション設定されている。
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フロントブレーキは大径Φ320mmのブレンボ製ディスクローターに、同じくブレンボ製の対向4ピストンキャリパーの組み合わせをダブルで装備。強力なストッピングパワーと、繊細なコントロール性を併せ持つシステムで、先進的なデュアルチャンネルABSも標準装備している。
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エンジンは総排気量798cc、水冷4ストローク並列2気筒。動弁形式はDOHCの4バルブ。最高出力は、シリーズ歴代最強の90PSを誇る。
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リアショックユニットは、油圧式のプリロードコントローラーを装備し、無段階でプリロード調整が可能。ハンドルスイッチでダンパーの効き具合が調整できる電子制御式サスペンション ESAがメーカーオプションとして選択できる。
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車体右側、フレームの下側エンジン後部にアクセサリー用の電源ソケットを装備している。
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片持ち式のスイングアームは新設計品。従来モデルと形状は良く似ているが、全長が長くなっている。
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駆動方式はメンテナンスコストに優れ、柔らかな乗り心地を提供するショックダンパー付きのベルトドライブ式を採用。リアブレーキは、大径Φ265mmのディスクローターにシングルピストンのブレーキキャリパーを組み合わせる。
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マフラーはクローズドループ式三元触媒コンバーターを内蔵。排気ガス基準EU3をクリアし、環境問題にも配慮。純正オプションとしてアクラポヴィッチ製のサイレンサーも用意されている。
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