【BMW Motorrad R1300GS 海外試乗記】磨かれた運動神経が魅せるドラマチックな走り
- 掲載日/2023年11月08日【試乗インプレ】
- 取材協力・写真/BMW Motorrad 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
BMW Motorrad R1300GS(2024) 特徴
すべてを一新した完全なる次世代GS
BMWが世界に誇るGSシリーズは40年以上の歴史を持つアドベンチャーバイクの始祖的存在であり、このカテゴリーはGSが開拓してきたと言っても過言ではない。そして今回登場したR1300GSは2013年に水冷ボクサーエンジン(部分水冷だった)が投入されて以来、10年ぶりのフルモデルチェンジとなる。
伝統の水平対向エンジンは完全水冷化とともにクランク下にギアボックスを配置したコンパクト設計となり排気量は1300ccに拡大。改良されたシフトカム(吸気可変バルブ)により最高出力9psアップの145ps/7750rpmへと向上。最大トルクも149Nm/6500rpmへと特にミッドレンジを太らせた。
車体も完全新設計となり、フレームは鋼管丸パイプからプレス成型メインフレームとアルミダイキャスト製サブフレームを組み合わせたハイブリッドタイプとなり剛性バランスを最適化。主にエンジンと駆動系の重点的な軽量化により、車重もトータルで12kg軽くなっている。足まわりも進化した。サスペンションはBMW十八番のテレレバーとパラレバーもEVOが付く進化型となり、ブレーキも前後が互いに連動するフルインテグラルタイプを採用。さらに今回、レーダーアシスタンスシステムが新たに搭載されたこともトピックスだ。前車との距離を自動的に最適化するACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)やレーンチェンジを安全にサポートするSWW、衝突低減ブレーキを含め4輪で培ってきた安全装備を搭載。
また停止時に自動的にサスペンションを沈める車高調整機能も初採用されるなど、安全性・快適性も大幅に高められている。もちろん、ライディングモード(Rain、Road、Eco、Enduroを標準装備)やコーナリング対応のABS&トラコンなど、現在の2輪テクノロジーにおける最新デバイスをすべて組み込んだ、まさに新時代のキング・オブ・アドベンチャーに相応しい妥協なき仕上がりとなっている。
なお今回欧州で発表された仕様は4タイプ。スタンダードのR1300GSとオフロード性能を強化した「GSトロフィ」、シックな黒塗装の「トリプルブラック」とラグジュアリーな限定モデル「オプション819」である。新型はこれまで以上にオプション設定が多種多様で、より細かくユーザーのリクエストに応えるモジュラーコンセプトを採用している。日本導入モデルについては国内向け報道を参照してほしい。
BMW Motorrad R1300GS(2024) 試乗インプレッション
オンロードスポーツを凌駕する走り
一見してXデザインのヘッドライトが目につく。車体全体のラインはより軽快で滑らかにスマートな印象になった。逆にアドベンチャーらしいワイルドな風貌や無骨さは薄まった感じ。好みはあるだろうが、自分はすぐに新しさの魅力に惹きこまれていった。
BMW伝統のフラットツインは出力特性もフラットなのが特徴。但しトルクの出方が現行型より過激で2000rpm~6000rpm辺りまでワイドバンドで強烈に盛り上がる。気分が良くなり試乗車にプリセットされていた「ダイナミックPRO」モードを試してみたが、レスポンスも一層鋭く回転もスムーズになっている。高回転で吸気バルブのリフト量とタイミングが切り替わるシフトカムの仕業でもあるが、その変わり様はドラマチックとさえ表現できるほど。
以前はワンテンポ置いてから加速するような感じだったが、スロットルとの直結感が凄い。排気音も巨大なハチが飛んでいるような「ブンブン」音はそのままに、よりドライで高めの周波数を含んだ官能的なサウンドになった。
最初に試乗したのはスタンダード仕様。ライポジは背筋を伸ばしてステップに直立した状態で、手を伸ばせばそこにハンドルがある自然さ。タンクもヒザが当たる部分はスリムで左右の内股がぴたりとタンクに沿う感じでホールドできて、立っても座ってもマシンとの一体感がある。シートは前後の自由度が増えたことでライダーはよりダイナミックな動きが可能。シート高は標準で850 mmと足着きの良さは従来と同等レベルだろう。
フラットツインは良くも悪くもエンジンのマスを感じやすく、重量物が車体センター部分にどんと鎮座している感じがあった。従来モデルは左右に車体をロールさせるとエンジンを左右に振り出すような動きを感じたが新型ではそれがなくなり、抜群の安定感と安心感をキープしたままフットワークが軽快になった。
テレレバー独特の路面にタイヤが張り付くような接地感や、ビタッと車体を寝かせたままオンザレール感覚で狙ったラインをトレースしていく正確性も健在。ステアリングの反応もダイレクト感が増し、フロントからスパっと切り込んでいける走りは前後17インチのスポーツモデルを思わせるほど。つまり従来のGSの良さはそのままに、より扱いやすく運動神経に磨きがかかった感じだ。
ブレーキングではフロントにしっかりとした剛性感があり、ABSが効くまでガッツリ握ってもフロントまわりは微動だにしない安心感。80年代に一世を風靡したアンチノーズダイブ機構を思わせるが、それでいてサスペンションは独立して路面の凹凸を吸収してくれるので安心してコーナーへ飛び込んでいける。さらに新型では前後ブレーキが互いに連動したフルインテグラルタイプが採用されたが、おそらく速度やリーンアングルに応じて連動率も最適化されているようで、ブレーキレバーの操作だけでもリアブレーキを併用しているような安定感が得られ、結果どんなシチュエーションでも自信を持ってブレーキがかけられる。もちろん、ライドモードと連動したABSとトラコンもフルサポートしてくれるので、朝露に濡れた路面でも「レインモード」で安心してライディングを楽しめた。
動的な軽さと“意のまま感”が凄い
GSの美点として出力特性がフラットでアクセル開度とトルクの出方に直結感があることが挙げられる。アクセルオン・オフでの挙動が分かりやすく、先読みがしやすいのだ。それを実感するのがオフロード。これだけの巨体とパワーを持つマシンである。不用意にアクセルを開けようものなら、どこにすっとんでいくかわからないのがビックアドベンチャーの悩みどころ。だが、GSは挙動が予想しやすいから思い切って開けていける。
オフロード試乗ではブロックタイヤと20mm長い前後サスストロークを持つ「GSトロフィ」仕様に乗り換えたが、瞬発力のあるエンジンは短い助走でフワリと250kg近い車体を宙に舞わせることができ、極太フォークを備え剛性を高めたEVOテレレバーは路面のあらゆる衝撃をハンドルに直接伝えることなく吸収してしまう。慣れてきたところでオプションの「エンデューロPRO」モードを試してみたが、当然オーバートルクでリアが滑り出すことがあるが、その動きがとても安定しているのだ。スイングアーム長を伸ばしたEVOパラレバーの効果が大きいと思う。
動的な軽さはオンロードで感じた以上で、巨大なエンデューロモデルにでも乗っている感覚で難しいセクションにも挑んでいける。ステップワークでガレ場をかき分けていく優れたコントロール性や、絶壁に見える巨大なヒルクライムを涼しい顔で登っていく抜群のトラクション性能に思わず脱帽。オフロードのエキスパートではない自分でも「え、こんなこともできちゃうの!?」と驚きの連続だった。これは軽量化とトルクアップ、サスペンションの改良とディメンション最適化などのシナジー効果によって成し遂げられたものと思う。
ちなみに標準装着のメッツラー・カルー4は高速道路やワインディングでも安心感抜群でコーナリングで荷重をかけても腰砕け感もなく、下手にダートでテールを流そうと思っても逆にグリップして車体を前に進めてしまうほど。逆に言えばダートでも安心ということだ。
新たに搭載された最新デバイスも試してみた。ACCはとてもスムーズかつ正確に前車を追従しつつ、コーナーではリーンアングルに応じて速度調整もしてくれる優れもので、SWWは後方の死角から近づく車両を確実にとらえてバックミラー内のインジケーターで知らせてくれた。
そして極めつけは自動車高調整機能。車速が15km/h以下になると自動的にサスペンションが30mmほど沈んで車高を下げてくれるシステム。スムーズすぎて本人には気付かないほどだが、アドベンチャーの鬼門である足着きの不安を解消してくれるはずだ。これらのシステムは無くても走れるが、あればあったでより安心・安全かつ快適な走りを楽しめることは疑いようもない。
すべてを一新したGSは、そのコンセプトが走りにもダイレクトに表れていた。まさに「キング・オブ・アドベンチャー」の面目躍如である。
BMW Motorrad R1300GS(2024) 詳細写真
ギアボックスをエンジン下に配置し、吸気バルブのタイミングとストロークを可変するBMWシフトカム技術を採用した完全新設計。BMWボクサーエンジン史上最もパワフルな最高出力107 kW (145 hp)/7750rpm、最大トルクは149 Nm/6500rpmを発揮。
ブレーキは前後が互いに連動するフルインテグラルABSプロを新採用。フロントブレーキはφ310mmディスク&ラジアルマウント4Pキャリパーをダブルで装備。減速中のアクセル操作ミスを低減するDBC(ダイナミック・ブレーキ・コントロール)で安全性を向上。
フロントサスペンションはEVOテレレバーに進化。過去BMWに採用されてきたテレレバーの長所を組み合わせた新設計で、基本的にはセンタースプリングストラット方式だがフォーク上部はアッパーブラケットに直接クランプされる。剛性を高め正確なハンドリングを実現。
リアサスペンションもEVOパラレバーに進化。片持ちスイングアームの中にユニバーサルジョイントを介してドライブシャフトが貫通する構造は同じだが、アームはより長くなりピボットシャフトも強化されて路面追従性とスタビリティを向上。
X型にレイアウトされたDRLが特徴のマトリックスLEDヘッドランプは、中心部にロー&ハイビームを集約し、どの方向からも目立ってとても明るいのが特徴。独自のライトアイコンとコーナーに合わせて光軸を変えるヘッドライトPROをオプション設定。
よりスリム形状となり着座スペースに前後の自由度が増えたライダーシート。STD仕様のシート高は850mmでローとハイのオプション設定がある。前後分割タイプになっていてパッセンジャー用コンフォートシートも用意される。
試乗車にはオプション設定の電動スクリーンが装備されていた。左手元スイッチで無段階調整が可能でコンパクトに見えてエアプロテクション効果も大いに実感できる。スクリーンとヘッドライトの間に前方レーダーが配置されている。
ナンバープレートステーにコンパクトに組み込まれた後方レーダー。安全性の向上に寄与するレーダーアシスタンスシステムはBMWの4輪でも実績のあるボッシュ社との共同開発品。
6.5インチのフルカラーTFTディスプレイを標準装備。手元のスイッチとマルチコントローラーにより車両情報やコネクティビティに簡単にアクセスできる。写真はスポーツモード画面のレイアウトでDTC介入度やブレーキ強度、バンク角をリアルタイム表示。
給油口前方に5VのUSB-Aタイプのスマホ充電用コンパートメントを装備。防水フラップ付きでスマートキーも収納できて何かと便利。メーター横にも12V充電ソケットを装備するなどITガジェットにも対応。
クランク下にミッションを配置することで低重心化とコンパクト化を進めた新設計ボクサーエンジン。結果としてスイングアームも延長されて路面追従性とスタビリティを向上。ちなみにエンジンで3.9kg、パワートレインで6.5kgも軽量化されている。
EVOテレレバー&EVOパラレバーの構造イラスト。新採用のDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャストメント)は減衰力とバネレートを動的に調整し、荷重に対応したプリロード設定も可能。オプションで車高自動調整とスポーツサスペンションも用意される。
オフロード性能を強化した「GSトロフィ」仕様。試乗車はオプションの19インチクロススポークホイールとストローク量を前後20mm延長したスポーツサスペンション(フロント/210 mm リア/ 220 mm)を装備していた。
ステップはオフロード走行に適した頑丈なスチール製ワイドタイプ。ブレーキペダルは90度回転させることでスタンディングでも操作しやすい高さへと簡単に調整できる。
GSトロフィ仕様はラリーシート(870mm)を標準装備。オフ車のような前後フラット形状とすることでダイナミックな走りに対応。オプションでSTDシート(850mm)やローコンフォートシート(830mm)も選べる。ライダーシートは前傾角度も調整可能だ。
スクリーンは軽量でシンプルな手動調整タイプを採用。メーター左上部分に見えるレバーを操作して2段階で高さを調整できる。
ハンドルクランプを支えるライザーはSTDと比べて15mm高く、スタンディングポジションでもしっくりくる設定になっている。
BMW Motorrad R1300GS(2024)のスペックや仕様を見る>>
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