VIRGIN BMW | #04 “鈴鹿8耐”を終えて… S1000RR 鈴鹿8耐参戦記

#04 “鈴鹿8耐”を終えて…

  • 掲載日/2010年08月04日【S1000RR 鈴鹿8耐参戦記】
  • 取材協力/Tras  Text / Masanao NITTA (Tras)   Photo / Koichi OHTANI, Virgin-BMW × BMW BIKES  English >>
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BMW S1000RR で【2010 QTEL FIM 世界耐久選手権シリーズ第3戦“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第33回大会】を見事に走り切った『#135 Tras & G-TRIBE + 8810R 』チーム。ここではマシン制作という立場からレースに参戦してきた、Tras 新田さんの記録をコラムで連載してきました。最終回となる4回目は、2010年7月25日(日)に行われた決勝戦の様子を、ピット裏から伝えていただきましょう。

BMW の最新テクノロジー満載の S1000RRは底知れぬ力を秘めていました。いろんな意味で、今年の鈴鹿はアツかった!

鈴鹿に入り、まず私達を襲ったのは? 紛れもなく猛暑でした…。武藤、齋藤、新田の3人でピットの設営を済まし、日陰においてあるペットボトルを口にすると、体温より少し暖かいものが喉元を過ぎるではないか!? 3人の脳裏によぎったもの、それは水温大丈夫かな? ということです。前回のコラムでお伝えした通り「エンジンとラジエターはノーマル」です。テスト走行時の気温は30度前後だったのですが、8耐ウィーク中の気温は連日37度超です。フリー走行を終えた戸田さんが「水温ヤバいっすよ! テスト走行時より10度以上高くなってる!」当然のようにメカニック達がどよめきだします。

岩間「平野さ~ん、水温って何度まで大丈夫なんですか?」(三重弁)

チームメカニックの1人、Motorrad Suzuka のマイスター、岩間さんが BMW Motorrad アフターセールス・サービスの平野さんに聞きます。

平野「補正が入るのが1xx度からなので、全~然大丈夫! ノーマルでいけますよ!」

一同納得&安堵。

BMW ジャパン2輪サービス部門に勤めている平野さんは、日本でいち早くニューモデルのメンテナンス情報を入手し、適切にディーラーメカニック達へ伝える講師でもあります。じつは平野さん、とてつもなく凄い経験の持ち主なんです。BMW は、本国ドイツで BMWの4輪を使用し、メカニック世界大会なるものを開催しているのですが、その世界大会で、なんと平野さんは優勝経験を持っているのです! 平野さんの登場でメカニカル的な不安が一気に解消し、メカニック達はとても良いムードで、淡々と作業を進めていきます。

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戸田隆選手。モーターサイクルをスポーツとして楽しむためのプロショップ、サスペンションを中心としたマシンのセットアップを得意とするG-TRIBE代表です。2010年は S1000RR で全日本ロードレース選手権に参戦しています。

まずはフリー走行。戸田さんが真っ先に乗り出します。戸田さんの後ろ姿には気合のオーラが! でも戻ってこない…!? ピットに戻ってきた戸田さんからマシン異常の報告。マイスター講師&マイスター達は「あれだ!」と、一気に作業に入ります。コースに戻る戸田さんの後ろ姿に先ほどまでのオーラは…。

さ~いよいよ予選です。
スタート直前、またまたトラブル発生! 既にタイムアタックが始まっているのに戸田さんがスタートできない! 戸田さんのオーラが怒りに変わり、チョット危ない雰囲気になりかけたのですが、メカニック長の永安さん(G-TRIBE)と戸田さんは長~いレース経験の持ち主同士。

永安「まっ、大丈夫っすよ? 戸田はこんなことではヘコタレませんから」

予選では戸田さんにすべての災難が降りかかります…

戸田「いいですよ? 今回は俺“厄払い係”に徹するんで(笑)」

みんなの夢や目標を達成するため、一気に気持ちを切り替える。なかなか出来ることじゃないですね。若干のトラブルはあったものの、マシンの異常は一切無くなりました。

決勝当日、うだるような暑さと澄み切った青空が私達を迎えてくれています。この日の私は朝6時から Motorrad Suzuka 工作室で作業をしなければならないことになっています。何もかも真剣に取り組む 8810R (高田速人選手)は、ピット作業でタイムを縮めるため、スタンドに問題があることを指摘しました。そんな時こそ“ものづくり”のプロとして力を発揮させなければ! アブに刺されながらスタンドを改修し、ピットに戻ります。朝一番から私には達成感が生まれています。

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高田速人選手。初めて乗るBMW のバイクがこの S1000RR と言いますが、そうとは思えない見事な走り、それに加えて適確なマシンのセットアップ能力に、チームからは厚い信頼を得ています。

11:30 いよいよスタートです。順調に滑り出した 8810R から齋藤選手に交代。ピット作業では、なんとワタクシ新田は“消火器担当”を勤めます。そう、あれは2008年“もて耐”での出来事でした、武藤さんがライダーとして参加した時の事件以来、責任ある消火器担当は私になってしまいました。詳細は武藤さんのブログに載っているはず…。レースレポートも武藤さん、それに戸田さん(G-TRIBE)、そしてMSP齋藤さんのブログにゆずります。

ライダーが走っている時やピット作業など、チームの重鎮や上下関係など関係無いのが BMW チームです。給油係はボクサースポーツクラブ代表の高木一生さん、サインボードは BMW Japan の久保田さんなど、みんな BMW が好きだから、一生懸命どんなことも楽しみながらこなしていきます。そんな良い雰囲気のチームとライダーは、みな気持が繋がっています。

決勝本番では予定通りに周回をこなし、19:30のチェッカーを18位という記録と共に迎えることが出来ました。

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齋藤栄治選手。MSP代表として様々なイベント活動を精力的に行っています。鈴鹿8耐を走るのは2006年以来で、最初に武藤監督から参加依頼があったとき、勝負の世界で走るにはブランクが長く、断ろうと思っていたそうです。

さ~、ピット裏では恒例のプール水かけ合戦です! おやおや? ライナートさんが濡れてないぞ? まあ、さすがに BMW Japan 2輪部門最高責任者をプールに投げ込む勇気のある人はいないようです。が、こんな時こそ新田の出番! プールに入ったライナートさんは、この瞬間からチームのトップになったのかな? 「来年もよろしく!」と言われてしまいました。

最後に、S1000RR は恐ろしい! なんと、本選に出場した車輌は、私が御殿場のビーターまで、自走で持ち込みに行った車輌そのものなのです。アクラポビッチ製レース用マフラーと CPU の書き換えのみ! これは紛れもない事実です。ってことは、皆さんがお乗りの S1000RR で、鈴鹿8耐に出場できるってことですね?

私達の活動を応援してくださっていただいた皆さんのパワーを頂戴し、大きな結果を産むことが出来ました。最後まで応援してくださり、本当にありがとうございました。来年の鈴鹿8耐には数台の S1000RR が参戦することを夢見て…Next year !!

2010年8月4日掲載
有限会社 トラス 代表取締役 新田正直

鈴鹿8耐を走る BMW S1000RR:第1コーナー~第2コーナー

鈴鹿8耐を走る BMW S1000RR:炎天下の第2コーナーからS字コーナー

鈴鹿8耐を走る BMW S1000RR:ピットワークの様子

鈴鹿8耐を走る BMW S1000RR:夕刻の第2コーナー~S字コーナー

鈴鹿8耐を走る BMW S1000RR:フィナーレ!

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決勝前日のヒトコマ(RKのステッカーを貼る新田さん)。ピットの設営やスポンサーさんのステッカー貼りも私の担当なのです。
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8耐フリー走行前の戸田選手はなんとなく余裕がうかがえますが? 齋藤選手は緊張バッチバチ…(こんなに緊張している齋藤の顔を見たのは初めてかもしれない! ちなみに普段は呼び捨ての仲です)。
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そう、2008年のアノ事件以来! 私には消火器担当の重要な役割を任されています。給油班と消火器担当は、難燃素材のスーツ着用義務があるのですが、これが暑いのなんの! ボクサースポーツクラブ代表の高木さんに、エアーでクールダウンしてもらいます。
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スーパービルドさんから販売予定のスイングアームは、軽量化と強度アップが図られています。レーシーでカッコイイですね!
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チーフメカ永安さんのちょっとした工夫です。必要無くなったスポロケットがタイヤ交換の際にチェーンフックに早変わり。永安「これでタイヤ交換はバッチリっす! ガハガハガハ~ッ!」
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戸田選手理論に基づき設計されたステップは、絶妙な位置にセットされています。このアイテムはG-TRIBEより販売予定です。
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8耐と言えばPIAAのヘッドライト! ライトとHIDはこのようにセットします。見えないところも美しく仕上がっているカウルは驚くほど軽いのです。
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R1100S から使いまわしのオリジナル・フロント・スタンド。決勝当日の朝、クシタニさんの不要なニースライダーを加工してスタンドの裏側に取り付け、メカニックの差し引き作業がスムーズに行えるようにしました。
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アクラボビッチ製フルエキゾーストマフラーはBMWディーラーから販売予定です。8耐マシンに装着していたとなれば、信頼度もさらにアップ!?
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イベント会場の BMW Motorrad ブースに展示されていた S1000RR に装着し、注目を集めていました。レース仕様なので公道使用は不可です。
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決勝当日。最後の確認作業も終わり、メカニック達も和やかなムードに。ん~それにしてもカッコイイピットですね! あっ、奥に座っているのが私です。
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フリー走行で最後のピットワーク作業確認。赤い耐火服にヘルメット姿が私です。ちなみにヘルメットは、高田選手のスペアを借りちゃいました。
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ピットウォークではたくさんの注目を集めました! カッコイイ~! トラス・スタッフの記念撮影担当も私です。
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いよいよ8時間耐久ロードレースの開幕! 第1ライダーは高田速人選手。地味に感じるかもしれませんが、トラスイエローは意外にもサーキットで目立っていますね。
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“8耐名物”ピット裏の簡易プールです。熱中症対策に効果てきめんのプールに浸かる齋藤選手に、高田選手がホースを使って冷やしています。Tras チームはライダー達の仲も良く、順調にスティントをこなしていくのです。
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スタートから5時間ほど経過。齋藤選手が順調に周回しているときの戸田さんと高田さんは笑顔で良いムードです。高田さんのヘルパーさんを務める小林さんも良い笑顔ですね。
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齋藤選手は予選タイムと同じペースで周回を重ねます。武藤「齋藤、あんなペースで走って大丈夫なのか?」戸田・永安・高橋「…」齋藤選手の走りは着々と順位を上げ、チーム内でも驚きの表情です。
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ホームストレートを駆け抜ける齋藤選手にサインボードを出します。「いけ~! 齋藤~~~!」
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18時前、陽が傾いてきました。あと1時間半ほどでゴールです。高橋さん、寺島さん、私の後ろにライナートさんと久保田さん。祈る気持ちで順位を見守っています。
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オーストラリアから来たジャーナリストらしき人に写真を求められる武藤監督。まだゴールしていないので、武藤監督の顔からは笑顔が見えませんね。
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いよいよファイナル! 最終ライダーの戸田選手に交代です! ちなみに腕につけている反射素材の腕章ですが、第1ライダー赤色、第2ライダー黄色、第3ライダーが白色です。
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201周! 無事完走! チーム員のハイタッチに戸田さんが応えます。トラスイエローは夜間でも目立ちますね?
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ピット内で悦びを露にし、雄叫びを上げる武藤監督。「みんな~! 感動をありがとぉ~~~!!」
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ライナートさんに「Next year ! 」と言われて固い握手を交わします。その言葉に私の顔は驚きの表情!
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8耐の風物詩、花火をバックに記念撮影。みんな大喜び! 花火の前には水かけ合戦が行われていたのでびしょ濡れです。もちろんライナートさんも!
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完走したチームを称えるセレモニー。表彰式の壇上に上がるチーム。「私達はノーマルエンジンで8時間を走り切り、18位を獲得しました! ヤッタゼ!」表彰式でもノーマルエンジンを強調する武藤監督でした。
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走行前、チームスタッフ全員でお決まりの記念撮影です。みんなの顔からヤル気がうかがえますか? 気になるBMWディーラーからの参加者は、北海道からバックパッカーズの内野さん。群馬県からモトパークの高橋社長とヤナセオートの寺島さん。神奈川県のモトラッド横浜からは初参加の佐々木店長。鈴鹿サーキットのお膝元、モトラッド鈴鹿の岩間さん。当然ですが、交通費・宿泊代などは自費での参加です。みなさん! 感動をありがとうございました。

編集後記:現場より

鈴鹿はとにかく暑かった…! せっかく来たのでコースの外周を歩いてみようと思いましたが、あまりの暑さに身の危険を感じ、ダンロップコーナーで断念…。ただ立っているだけでも過酷な環境の下、レーシングスーツを纏い、ハイパワーマシンを全身で繰り、お昼前から陽が傾くまで8時間も走り続けるなんて…ライダーは本当に凄いです。

6月に47歳を迎えた戸田隆選手は、S1000RR で MFJ SUPERBIKE (全日本ロードレース選手権)にスポット参戦しており、高田速人選手も、今回初めて乗った BMW で参戦を決めたそうです。市販車状態で高いポテンシャルを持つ S1000RR は、基本的にエンジンはスタンダードという、大排気量マシンによる国内最高峰のモーターサイクルロードレース(JSB1000)に適しているということなのでしょう。このクラスには国内4大メーカーはもちろん、イタリアのアプリリアやドゥカティがあり、迫力のバトルを繰り広げています。そこへ2台の BMW が加わるのです。

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しばらくレースシーンから遠ざかっていた齋藤栄治選手の仕事っぷりも素晴らしく、34番グリッドから高田選手の好スタートで1周目は24位、齋藤選手に交代して一時は16位にまで順位を上げ、その危な気の無い淡々とした熱い走りは鳥肌モノでした。齋藤選手は BMW Motorrad ライダートレーニング公認インストラクターでもあり、普段からストイックに体力維持管理に努めるアスリートでもあります(酒好き)。レーストラックではすでに“いぶし銀”のオーラが漂っていました。

こうして昨年の“もて耐”に引き続き、今年もTras新田さんのレース参戦記をコラム連載することが出来ました。「BMW で何か面白いことをやろう!」という新田さんの気持ちはずっと変わらず、来年もまた、何らかのカタチで「面白いこと」をやってくれると思います。その際もまた、当サイトでその模様をお伝えできればと思います。

VIRGIN BMW × BMW BIKES 編集部
編集人 田中善介

挑戦者
新田 正直 Masanao NITTA
ドライカーボン製品のデザインから設計、製造、販売まで、つねに新たな挑戦と遊び心をもってモノづくりに取り組む“ドライカーボンの職人集団” Tras代表。カーボンという“夢の素材”で、そのメリットを最大に活かしたハイクオリティな製品は世界トップレベル。自身もBMWオーナーとして、R100ロードスター、R1200RT、HP2 Megamoto(もて耐仕様)を所有。自社の技術力向上と新たな挑戦の一環として、2006年の鈴鹿8耐、2008年のもて耐など、周囲の人間と愉しみながらBMWでのレース参戦に挑む。毎年レーサーの製作(外装)を行い、単なる工業製品ではなく、誰もやったことのない付加価値のあるものづくりを目指すチャレンジャー。

がんばれ“Trasチーム”!

この記事に関するコメント(ご意見、ご感想、ご声援!など)を受付ています。S1000RR レーサー製作は、すべてプロフェッショナルの手により、豊富な知識と経験、確かな技術によってレーシングユースを前提とし、参加する人やその周囲の人たちが愉しみながら行っています。

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これまでのコメント一覧

EA@千葉 さん

とにかくお疲れ様でした!
新田さんのコラム&チームの皆様の活躍でS1000RRの素晴らしさ、レースの楽しさが多くの方に伝わったのは間違いないと思います。 また何か、近い将来にワクワクさせることをやってくれると期待しています(笑)ありがとうございました!

Tras 新田 さん

EA@千葉さん
いやいやお疲れ様だなんて、みんな疲れてなんかいませんよ!?それにしてもS1000RRは秘めたるパワーがみなぎっていますね。
BMWチームはとても良い雰囲気で楽しみながら目標に向けて突き進んでいます。このコラムを通じてそれを皆さんに伝えることが出来たのなら、とてもうれしく思います。
期待に応じられるかどうか???
第3弾のコラムを待っていてください!なんて…

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