VIRGIN BMW | F700GS(2012-) 試乗インプレ

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BMW Motorrad F700GS

F700GS(2012-)

  • 掲載日/2014年08月20日【試乗インプレ】
  • 取材協力/BMW Motorrad Japan  取材・写真・文/山下 剛

エフロクの愛称で親しまれたロングセラーモデルが
『エフナナ』へと進化してますますおもしろくなった

F700GS は、1994年に登場した『F650』がルーツだ。排気量 648cc の水冷単気筒エンジンを搭載したデュアルパーパス(オンロードもオフロードも楽しめる市販バイク)である F650 は、『ファンライド』と『エンデューロ』を足した『ファンデューロ』というキャッチフレーズとともに親しまれた。ゆとりあるストローク量とアップライトな乗車姿勢は、オフロードでの良好な操作性と運動性はもちろんのこと、街乗りにも適した特性をもたらしており、扱いやすいエンジンフィーリングと相まってビギナーや女性にも人気のモデルとなった。

その後『F650GS』として、よりオフロード色を強めたモデルへと進化し、日本では『エフロク』の愛称で親しまれたロングセラーモデルとなる。オンでもオフでも扱いやすく、大排気量モデルと比較して軽量でコンパクトな車体はツーリングにも最適で、とくに日本人の体型にマッチした優秀なツーリングモデルとしての地位を確立していた。

そして 2008年、エンジンは 798cc 水冷並列2気筒へと進化したものの、親しみやすいキャラクターは不変だったことから車名は引き継がれ、排気量を示すものではなくなった。

それから4年後の 2012年、マイナーチェンジを受けるとともにより進化したキャラクターを表すため、車名も新たになったモデルが『F700GS』なのだ。

F700GSの特徴

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いつでもどこでも気負わず走れる
ミドルサイズのマルチパーパス

エフナナこと F700GS の特徴は、F650 の登場以来変わっていない。『扱いやすくパワフルなエンジン』『ゆとりあるストローク量を持つ前後サスペンション』『アップライトな乗車姿勢』という3要素が、エフナナの持ち味だ。もうひとつ付け加えると、前後のアルミキャストホイールが軽さと安定を両立したハンドリングをもたらし、乗りやすさにいっそう深みを加えている。では、その特徴をひとつずつ見ていこう。

まずエンジンは、排気量 798cc の水冷並列2気筒を搭載する。これは他のFシリーズ同様の機構だが、エンジンマッピングなどの変更により、シリーズ中もっともおとなしめの味つけとなっている。しかしながら最高出力は 75ps/7,000rpm、最大トルクは 77Nm/5,500rpm と必要にして十分、かつより低回転域で発生するから、なんといっても扱いやすい。

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サスペンションは前後 170mm のストローク量を持っている。一般的なオンロードバイクと比較してだいたい 50mm もゆとりがあり(Fシリーズのロードモデルである F800R と F800GT はいずれも前後ともに 125mm)、やわらかな乗り心地とゆるやかな挙動をもたらしてくれる。

乗車姿勢についても、やはりゆとりを感じさせてくれるもので、シートの高さとハンドルの位置と幅、ステップの高さという3点の関係性がよく、上半身も脚もリラックスしたまま走り続けられる。

さて、ここまでの特徴だけを見ると、その数値こそ異なれど、よりオフロード走行を得意とする『F800GS』も持っているもので、Fシリーズ GS の特徴ともいえる。もちろんそれらをよりフレンドリーな特性としているからこそのエフナナなのだが、F800GS と決定的に異なる特性をもたらしているのが前後ホイールの構成だ。

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エフナナのホイール構成は、フロント 19 インチ、リア 17 インチのアルミキャストホイールだ。アルミキャストホイールは軽くて剛性が高く、オンロードでの快適性をぐっと高めてくれる。F800GS のワイヤースポークホイールと違い、スポークのメンテナンスが不要だ。さらにフロント 19 インチというホイール径は、整備の行き届いた舗装路での快適性はもちろんのこと、凹凸のある荒れたアスファルトでの外乱収束性もいいし、さらに路面が荒れて滑りやすくなるオフロードでも安定した走行性をもたらしてくれる。

つまり、シチュエーションや路面状況を問わず、いつでもどこでも普段どおりに気負わず走ることができ、結果として疲れにくいからロングツーリングや街乗りも楽しめる。それが F700GS の特徴だ。

F700GSの試乗インプレッション

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バイクの楽しさと便利さを
心の底から味わえるグッドバランス

そんなエフナナ、実際にどんな乗り味なのかをお伝えしよう。今回試乗したのは、エフナナの工場オプションとなる『ローダウン仕様』だ。当初は工場オプションだったローダウン仕様だが、2013年以降に輸入される F700GS はローダウン仕様が標準となっている(価格はいずれも同じ)。ストローク量がフロントで 140mm、リアでは 135mm となった専用サスペンションが装着されている。このためにスタイリングがロードバイク然としているのもローダウン仕様の特徴だ。

またがってみると、身長 175cm、体重 85kg(標準より重いため参考になりにくいが……)の筆者の場合、足は踵までしっかりとついた上にヒザがかなり曲がる。シート高の数値は 765mm とのことだが、やはり日本標準となるローシートの形状も相まって一般的なロードバイクよりも足つきはいい。身長 170cm、体重 60kg のスタッフがまたがってもやはりヒザに余裕があったから、小柄な男性や女性でも不安のないポジションではないだろうか。GS シリーズに乗りたいけど、車体が重いし、足がつかないから、とあきらめていた人は、ぜひ一度またがってみよう。

ハンドル幅も絶妙だ。ロードモデルより広く、オフロードモデルより狭い。リラックスした乗車姿勢を創りだしてくれるし、渋滞でのすり抜けも不安なくこなせるレベルだ。

ローダウン仕様のデメリットとしては、バンク角が浅くなることと、センタースタンドを装着できなくなることだ。これらはいずれも致し方ない部分だが、バンク角についてはリアサスペンションのプリロードを調整することである程度は対応できる。

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さて、F650GS から F700GS への進化で、まず気づくのはエンジンだ。最高出力が4ps 高められ、よりパワフルになっている。2,000~3,000rpm では変わりないが、4,000rpm あたりから車体をグッと押し出す感じが伝わってくる。かといって唐突さはなく、しっとりとした力強さで扱いやすい。赤信号からの加速でも使い勝手がいいし、高速道路での追い越しもイージーになった。

5,000rpm 以上の中~高回転域では、やや振動が増えるものの、それでもかなり静かでスムーズに吹け上がっていく。パワー感としてはマイルドな部類だが、日本の道路事情を考えればこれくらいが適切ともいえる。ちなみに 100km/h 巡航時のエンジン回転数は 4,000rpm をちょっと下回るあたりで、不快な振動はなく、いつでもトルクを取り出せる回転域だ。

エンジンがパワーアップされたことに伴い、ブレーキも強化されている。シングルディスクだったフロントは F800GS 同様のダブルディスクとなった。F650GS のシングルでも効きは十分にあり不満はなかったが、おそらくは放熱効果を高めて安定した制動力を維持するためだろう。タッチは良好で、効きは抜群。同時に ABS も最新モデルとなっており、安全性と安心感がいっそう高められている。

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BMW がエントリーモデルとして位置づけているように、免許を取ったばかりのビギナーや小柄な人でも不安なく楽しめるのが F700GS 最大の特徴だ。それはまたがった瞬間から感じられるし、走り出すといっそうその思いが深まっていく。

反面、乗り慣れた人にとってはエンジンのトルクやおおらかなハンドリングなどに物足りなさを感じるだろう。しかし F700GS が生み出すゆとりは、経験豊富なライダーにとっても気持ちの余裕になることは事実で、いかなる人が乗っても F700GS の特徴は生きてくる。

しかしあえてすすめたいのは、R1200GS をはじめとするリッターオーバーのアドベンチャーモデルを所有していて、なおかつオフロードに興味があるものの、経験はあまりなく、ダート走行に不安がある……というライダーのセカンドバイクだ。というのは、足つきが抜群によく、車格もコンパクトで軽いから、多少荒れた林道でも不安なく走れてしまうのだ。とくにローダウン仕様の場合はそれが顕著で、雨上がりのヌルヌル路面での不安がかなり軽減される。さらにエンジンのマイルドさも微妙なスロットル操作を必要とする路面で有効だ。もちろん、駐車場が砂利敷だとしてもなんの苦労も心配もいらない。

デュアルパーパスモデルはそもそもが『オンとオフのいいとこどり』だが、排気量や車格も含めて、F700GS はその特徴がいっそう深められて広がった印象だ。本当の意味でどこでも走れるし、通勤通学から買い物といった街乗りからロングツーリングまで、バイクの楽しさと便利さを心の底から味わえる。

F700GS プロフェッショナル・コメント

言葉で伝えることのできない
正真正銘のオールラウンダー

F700GS は、BMW Motorrad を代表する車種ではないでしょうか。もちろん、R1200GS という超代表車の前では一歩下がってしまうかもしれませんが、街中で見かける頻度は同等以上だと思います。しかしながら、この F700GS には特筆すべきスペック・装備が見当たらないのです。普通はこのようなコメントとしては、スペックや装備の話から入っていくと思いますが……これが “言葉で伝えられない” 理由です。

実際は F650GS から F700GS へのアップデート時にエンジン、ブレーキ、フロントデザインなど、多くの箇所に手が加えられ、1クラス上の性能となりました。その一方で、変わらなかったところは乗りやすさです。オンロード・オフロードだけでなく、通勤や買い物といったチョイ乗りからロングツーリングまで、必要にして十分な性能を持った “本物のオールラウンダー” が F700GS なのです。

実は私、根っからの SS 好きで、愛車は S1000RR に乗っております。しかし、お店のイベント等でバイクに乗る時はいつも、扱いやすくどこへでも行ける『エフナナ』を選んでしまいます。そんな F700GS にまずは一度乗ってみてください。(モトラッド港北 店長 田畑 美則さん)

取材協力
住所/神奈川県横浜市都筑区早渕2-1-29
?Tel/045-595-1220
?営業/10:00~19:00
?定休/木曜

F700GS の詳細写真

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F650GS から大きく変更されたもののひとつは、シュラウドを含むアッパーからサイドにかけてのフェアリング。複雑な曲面を多用し、よりスタイリッシュになった。
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41mm 径の正立フォークは、調整機構のないシンプルなタイプ。ローダウン仕様のサスペンションストローク量はフロント 140mm、リア 135mm となっている。
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フロントブレーキはダブルディスクとなり、より安定した制動力を発揮するようになった。標準装備となる ABS は新世代2チャネルのものへと刷新され、安全性がさらに高まった。
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4ストローク水冷並列2気筒エンジンは、マッピング変更などによって最大出力が4ps 高められ、さらに扱いやすく頼もしいトルクを生み出す。
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リアサスペンションはプリロードアジャスター付きのモノショック。工場オプションで ESA(電子調節式)を装着できるようになった。
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低重心化と車体のコンパクト化に寄与する、シート下のガソリンタンク。レギュラーガソリン仕様だった F650GS と異なり、F700GS ではハイオク指定となった。
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ピリオンライダーのグリップを兼ねたパニアケースホルダーが標準装備される。形状は大きく握りやすい。大きなシートバッグを積載するときにも役に立ってくれる。
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シングルピストンのオーソドックスなリアブレーキだが、効きはけっこう強め。リアを先にかければフロントの沈み込みをかなり抑えられる。ASC(トラクションコントロール)をオプションで装着できるようになった。
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軽量なアルミキャストホイールが F700GS の特徴のひとつ。ブロックタイヤも選択できるサイズだから、ダート走行もこなせる。チェーンは右出しなのでサイドスタンドでもメンテナンスが容易だ。
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日本仕様にはローシートが装着され、シート高は 765mm。小柄な人でも足をつきやすい高さに抑えられている。オプションでは標準シートやハイシートなどもあるので、ポジションを調整することもできる。
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全幅は 880mm で、ロードバイクよりも幅広だが、オフロードバイクよりは狭い、まさしく中間的ないいとこどりのハンドル幅。ミラーはやや死角が多いのため、目視は必須。グリップヒーターは標準装備だ。
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ハンドルスイッチは、RシリーズやKシリーズと同じ意匠のものへと変更され、操作性が向上している。
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容量たっぷりのラジエター。試乗した7月の東京近郊では、やや長めの信号待ちの間にラジエターファンが回り出していた。
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ノーマルマフラーはヘアラインが美しいステンレス。純正とはいえ、かなり満足度の高いサウンドを奏でる。
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ウインカーとテールランプは LED となり、非視認性がいっそう高まった。コンパクトでスタイリッシュなデザインも秀逸。
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メインキーの左横には 12V 電源をとれるヘラーソケットが装備される。ナビゲーションやスマートフォン、ヒートウェアを使用する際に重宝するだろう。
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