BMW G310R(2022)試乗インプレ / 多くのライダーに支持されるコンパクトBMW
- 掲載日/2022年02月21日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/小松 男
初代モデルの登場は革命的であり
ビーマーのすそ野を広げることに成功
2000年代に入ってから、主力のツアラーモデルやアドベンチャーモデルだけでなく、スーパースポーツやネオクラシックなど、モデルセグメントを大幅に拡大し販売数を増加させてきたBMWモトラッド。ただそのどれもが大型バイクに属するものであり、少なくとも日本の免許制度で言えば、普通自動二輪免許では乗ることのできない排気量だった。そんなBMWモトラッドが打った次の手が、コンパクトな小排気量モデルの開発だった。
その第一弾モデルとなったのが、日本には2017年に上陸したG310Rだった。313cc単気筒エンジンを後傾させるレイアウトでパイプフレームに搭載、さらに前方吸気、後方排気とするなど、BMWモトラッドらしいこだわりのパッケージングが用いられたことや、当時税込み58万円というかなり抑えた車両価格で販売されたことなどもあり、大ヒットモデルとなった。なんといっても使い勝手がよく、毎日乗るような使い方から、ロングツーリングまでどのような使い方をしても高い満足度を得られることがポイントとなっていた。そのG310Rが2021年モデルで、モデルチェンジが施された。今回は各所に手が加えられた現行G310Rを紹介する。
G310R(2022) 特徴
何よりも軽さが武器であり
女子ライダーにも支持される
これまでに初代G310Rや兄弟モデルにあたるG310GSに触れたことがあった。その印象は、まずは傍から見るとコンパクトに見えるデザインなのだが、実際に跨ると大きくて立派な車格をしているということ、そして単気筒エンジンはしっかりとしたパワーを持ち、クラスを超えた乗り味をもたらしてくれるというものだった。
これらのことから、そもそも設計段階から入念に考えられて作り上げられていることをうかがい知ることができた。G310トロフィーというイベントレースがBMWモトラッドバックアップの下で開催されていることも面白い。S1000系などでサーキット遊びをするオーナーは多いが、やはり速度域は高く、ライディングスキルも相応に求められる。
一方コンパクトなパッケージングのG310Rであれば、幅広い層がサーキット走行を楽しめるし、レースでも差がつきにくい。このようにバイク遊びの幅を広げるということにもG310Rは一役買って出ているのだ。そしてG310Rを借用している期間中に、周囲のバイク女子二人から「G310Rは良いですよね。軽いし扱いやすいし、欲しいバイクです」と言われた。そんなモテバイク、G310Rはモデルチェンジによって、どのようになったのだろうか。
G310R(2022) 試乗インプレッション
しっかりとBMWモトラッドを感じられる内容
高級感は薄目だが、本質はそこではない
昨夏ごろから日本でもデリバリーが開始された現行型G310Rを近くで見るのは、今回が初めてのことだった。ヘッドライトにLEDが内蔵されたり、サイドパネルの形状などが変更されているものの、基本的には従来モデルを踏襲したデザインであり、驚かされるほどの違いという点は見受けられない。
カラーパターンに新しさを助長している印象を持ったが、大きな変更がなされなかったことは、従来モデルを乗っているオーナーが安心したかもしれない。傍から見ると小柄に見えるG310Rだが、シート高は785㎜あり、跨ってみると割と大きいなと感じさせる。
セルスターターを押すと、軽いクランキングの後、単気筒エンジンが目を覚ます。今回のモデルチェンジでのポイントとして挙げられるのが、ライドバイワイヤの採用やスリッパ―クラッチの搭載だ。もちろん環境基準であるユーロ5に対応しているのだが、走り出したとたんにパワーが引き上げられた感触があった。極低回転で若干息つきそうになる場面があったが、すぐにそのクセにも慣れた。何よりも軽量な車体は振り回すように走らせるととても楽しい。
市街地、高速道路、ワインディングと転々とステージを変えてテストを行っていく。スポーティな走りをするために高回転まで引っ張るような場面だと、単気筒エンジン特有のバイブレーションはあるものの、常用回転域であればさほど気にならない。粘りのあるエンジン特性なので、シフトを固定してオートマチック的に扱うこともできる。強いて言えば4速シフト、5000回転、時速60キロという、市街地やツーリングで一番使われるであろうポイントで、ちょうどバランスが取れているので、この付近を上手く使って走らせると心地よく、そして楽しい。
軽い車体を活かしてキビキビ走らせることも楽しいが、一方で長めに設定されたスイングアームの恩恵もあり安定感も大きい。こういったセッティングならば毎日乗るような使い方で楽しく、ロングツーリングへ出ても疲れにくい。BMWモトラッドらしいと感じられる部分だ。
メーターパネルやハンドルまわりのスイッチ類などに少々チープな印象を受けたことを告白しておく。BMWモトラッドというブランドに、高級感を求めているのであれば、G310Rは若干役不足かもしれない。しかし、付き合えば、エンジンの特性やハンドリングなどに、これは間違いなくBMWモトラッドの血脈を持つモデルであると体感することができる。大型バイクは躊躇するけれども、何かスペシャルなバイクを手に入れたいと考えている方には特にお薦めでき、G310Rはファーストモデルとしてもセカンドバイクとしても手元に置いておいて素晴らしい相棒となってくれるだろう。
何よりも現行モデルで気になった点と言えば、車両価格が68万1000円からとなっているところか。初代モデルが登場した時には58万円だったので、5年間で10万円値上がりしたということになる。装備が良くなった分と言われればそれまでだが、50万円代で買えるBMWモトラッドと言うのは大きなインパクトがあっただけに、多少残念に思える。
G310R(2022) 詳細写真
排気量313cc、水冷DOHC単気筒エンジンを後傾させ搭載。2021年のビッグマイナーチェンジで、ユーロ5規制に対応し、ライドバイワイヤ(電子制御式スロットル)やスリッパ―クラッチが採用されている。
φ41mmの倒立式フロントフォークに、110/70R17サイズのタイヤをセット。ブレーキにはブレンボ社の小型バイク向けラインであるバイブレのキャリパーをラジアルマウントとする。シングルブレーキではあるが、制動力に不足は感じない。
BMWモトラッドロードスターセグメントのS1000Rに通じる意匠を受けたフェイスマスク。現行モデルでは、ヘッドライトにLEDが採用されたこともポイントとなっている。
スチールパイプフレームの結合部に組み合わされたステップ周りのパーツ。タンデムステップまで一体化されており、形状からしてバックステップなどへの換装が困難に見える。
ライダーとパッセンジャーがワンピース形状となったシートだが、中に用いられているクッションの形状が良く、ソロライドでは自由度が高く、タンデムでは両者ともにリラックスしたポジションが取れる。ライダー側のシート高は785mmだ。
フルデジタル表示のメーターディスプレイ。メーターサイドに備わるボタンを押すことで、オドやトリップ、メンテナンススパンなど様々なインフォメーション表示へと変更することができる。視認性も良かった。
ブラックアウトされたバーハンドルは、適度な高さと幅で設定されており、車体をコントロールしやすい。調整可能レバーが採用されていることもチェック。ハンドル中央のライザー部分に備わるプロペラマークのポイントジュエリーは、ロードスターセグメントの証。
従来モデルからサイドパネルの形状が変更された燃料タンク。容量は11リットルとさほど大きくはないものの、とても燃費が良いこともあり、長距離走破にも向いている。
プリロード調整機構を持つモノショックをスイングアームに直付けしている。なかなか動きが良く、リアタイヤの接地状況をライダーへとダイレクトに伝え、トラクションも分かりやすい。
ウインカーやテールライトもすべてLEDへと変更された。シート後端が短いデザインとされており、テールセクションの造形は引き締まった印象。タンデムグラブバーは、つかみやすい位置、形状だ。
駆動方式はチェーンタイプが用いられている。車重やパワー、そしてコストを念頭にし、メンテナンス性も踏まえて考えると、チェーンドライブはベターな選択だ。
リアのタイヤサイズは150/60R17。最新スポーツモデルとしては細身に思えるかもしれないが、このサイズだからこそ軽快なハンドリングを楽しむことができる。後方排気とされたエキゾーストシステムの取り回しなども凝っている。
シート下にはバッテリーなどが収められているほか、若干のユーティリティスペースが用意されている。なお、他のBMWモトラッドと同様に、ETC2.0は標準装備となっている。